弥生研究所

人は誰しもが生きることの専門家である

【読書感想文】草原の風

私は歴史小説が好きだ。その面白さを最初に教えてくれたのは吉川英治三国志であるが、その三国志を通じて知ったのが宮城谷昌光であった。歴史の面白さは、好きな時代、例えば三国時代から派生して、近隣の時代の歴史を徐々に知っていくところにある。本作の時代背景は、三国時代のおよそ二百年前、劉邦が建てた漢という国を再興した劉秀なる人物の物語である。

漢という国は、王莽という人物によって一時中断されたのを契機に、前半を前漢、後半を後漢と呼ぶ。前漢後漢を合わせて治世は四百年に渡り、これは中国史上で最初の大王朝となった。この後漢の末期が三国時代と重なる。

王莽は前漢に代わって新という国を建てたが、あまりにも政治的な失敗が続いたため、中国では各地で反乱がおこった。この反乱に乗じた一人が劉秀である。劉秀は前漢の皇族の末裔ではあったものの、既に家勢は衰退して自身は無位無官であった。滅亡した王朝の復興を唱えて天下統一を果たしたのは、中国史上で劉秀だけである。

中国の歴史では王朝を建てた皇帝は数多くいれど、劉秀の存在はその功績に比べてかなり目立たないほうである。その理由は大きく二つある。ひとつは、劉秀が皇帝になるまでの過程には多くの障害があったとはいえ、人生全体を見渡してみると、波乱万丈というよりはつつがなく成功して人生を終えた印象が強いからである。三国志のような視点と同じ視点で劉秀という人物を見てしまうと、物語性に魅力を欠いているのである。どれだけ心血を注いでも北伐を果たせなかった諸葛亮には、神格じみた魅力が付与される。劉秀が苦労人であったことは間違いないが、その苦労人が苦労のすえ成功を収める道筋に魅力を付与するには、また別の視点が必要である。そしてもうひとつは、何を隠そう劉秀自身が目立たない性格であったからである。

史書には「仕官当作執金吾 娶妻当得陰麗華」と残っている。日本語に訳すと「仕官するなら執金吾、嫁を娶らば陰麗華」という意味になり、さらに超訳すれば、「将来の夢は警視総監! 陰麗華ちゃんは俺の嫁!」 これが若かりし日のオタク、劉秀の呟きである。執金吾は首都の警察業務を束ねる武官でありながら服装が華美であり、あこがれやすい官職であった。陰麗華は劉秀の地元では有名な美少女であった。このどこにでもいるような呑気なオタクが、執金吾を飛び越えて皇帝となり、憧れの陰麗華を皇后とするのであるから、史書の言葉はどこまで後付けなのか疑いたくなるものである。

一方で、劉秀は人の風上に立つべくして立った人間である。三十一歳という若さで皇帝に即位し、在位は三十二年に及ぶ。その後、二百年に及ぶ後漢王朝の礎となった。これは、劉秀という人物に多くの優秀な人物が集まったことの証拠である。劉秀が人の風上に立ちうる人でなければ成し得ないことだ。

そんな劉秀を本作はどのように描いているのかという疑問に対しては、実際に本作を読んでもらうことにしよう。

草原の風(上) (中公文庫)

草原の風(上) (中公文庫)

草原の風(中) (中公文庫)

草原の風(中) (中公文庫)

草原の風(下) (中公文庫)

草原の風(下) (中公文庫)

以降は、私が読んで考えたことの抜粋である。

なんじは大悪人の面相をしているな。多くの人を殺しても偽善の仮面がはがれるのほどの大悪人だ。 上巻、p138

長安留学中の劉秀が、学友の彊華から言われた言葉。劉秀自身が偽善ほど質の悪いものはないと思っているがゆえに、劉秀はこののち数日間鬱悶することになる。

彊華は一言でいえば変人であり、学舎の中で孤立した存在であった。学生はみな彊華から距離を置いたが、劉秀だけがただひとり彊華とまともな会話をした人物となった。そんな劉秀を彊華もまた変人と見たのであろう。彊華は内なる劉秀の感想を、率直に劉秀本人に突き付けたのである。劉秀には人の言葉を聞くという性質がある。劉秀は彊華の言葉に悪意を感じ取らなかった。多くの人は人の話を聞いているとき、その話の内容について考えているのではなく、次に自分が何を話すかを考えているという。劉秀は自分が話す言葉を考えるのではなく、人が話した言葉を考えているのであった。

人は何かを失えば、何かを得られる。多くのものを両手で抱えて生まれ育った者は、それらを落とさぬようにするだけで、あらたなものを得ることはできない。そう思えば、――この両手は、天を支え、地を抱けるほど空いている。 上巻、p177

実家と養家を去り、宗家のもとで暮らすことになったとき、孤独感を強め自分の未来の暗さを予感した劉秀の心情。

世は王莽政権の末期であり、各地で反乱がおこり、社会全体の見通しは暗くなっている。いっぽう劉秀個人に視点を戻しても、父劉欽は南頓県の県令であったが既に亡く、自分自身は無位無官のままである。ただし、劉秀には逆転の発想という、人生哲学ともいうべき思考の柱があり、このときも、持つ者は失うだけであり、持たざる者は得るだけだと考えた。

劉秀は稼穡の達人でもあった。稼穡とは畑仕事のことであり、劉秀は良く働いた。率先して働く姿勢は生涯かわらず、そこに人は惹かれて、彼のもとには優秀な人が大勢集まった。そして人を用いることに無駄がなく、自然を相手に無駄なことを行わない稼穡が常に劉秀の根底にあった。

良いものさえ作れば、かならず売れる、というのは妄想にすぎません。作るより、売るほうがむずかしいといえる。作ったものを、広く遠くまで人々に知ってもらうには、そうとうな工夫が要ります。 上巻、p298

長安で劉秀に薬売りを教えられた朱祜が、その後順調に商売を続けていることに対して劉秀が言った言葉。それに対して朱祜は「文質彬彬ですね」と応えている。

文質彬彬とは外見と内面が程よく調和していることを意味する。なにを外、なにを内とするかによって、人や物にとらわれず広く当てはめることのできる言葉である。劉秀は良いものを作れば売れるという考えは妄想に過ぎないと断言する。私は心が痛い。世の中を見渡してみると、確かに必ずしも良いものが売れているわけではない。広く知ってもらえたものが売れているのだ。

紊れた服装は、わざわいを招く、<中略>正しい服装は、祥祉を招くであろうよ。 中巻、p244

劉秀たち反乱軍の行軍をみた河南群の沿道の人々の感想。

劉秀たちは王莽政権に対する反乱軍であるがゆえに、軍装は乱れがちであった。そのなかで劉秀だけが、漢の伝統的な服装を心掛けた。その行軍を傍から見る庶民の中には学のある者もいる。劉秀は細かい気遣いで輿望を得た。

ここにも文質彬彬の言葉が当てはまる。反乱軍は勝利し続け実力を伴っていたからこそ、正しい服装に輿望が集まった。実力が伴わなければ、高級ブランドを身にまとっても虚勢にしかならないのは現代にも通じる。

王莽、王朗などは、汚れた時の化身であるといってよい。これから劉秀がなすべきことは、穢悪な時を滌い清めることであろう。 下巻、p66

人の成否は徳の薄厚にありと鄧禹が述べたとき、王莽や王朗を憎む自分の徳や慈悲は何だろうかと自問したときの気付き。

劉秀は、悪政を敷く施政者を憎むのではなく、悪政を敷く施政者を生み出した、時代の仕組みに着目した。

宮室の外にある晩夏の光を、吹き始めた風が揺らしているようである。河北は秋の訪れが早い。光も風も、夏の暑苦しさをまぬかれようとしている。 下巻、p276

皇帝の位につく劉秀の前に彊華が現れたとき、劉秀がまぶしさを感じた情景。

風が光を揺らすとは味わい深い表現である。宮城谷昌光は情緒的な表現を多用する人ではないだけに、この彊華と劉秀の再会が特別なことを思わせる。彊華という人物は史実であり、皇帝即位を躊躇う劉秀に予言書を託したとある。彊華は一貫して、奇人でありながら真実の人であり、彊華がもたらした予言書の信ぴょう性は、そのまま彊華の人間性が反映された。

妄をつかない人の言は、奇言となり、その行動は、奇行となり、その人は、奇人となる。そう想うと、妄には、この世を潤霑させるはたらきがあるのだろう。 下巻、p278

劉秀が学生の頃と変わらない彊華を見て持った感想。

妄は嘘と取って差し支えないだろう。たしかに、世の中のすべての人間関係が、嘘のない正直だけでやりとりされていたら、ほとんどの人間関係は成り立たなくなるかもしれない。相手を傷つけない優しい嘘のような、嘘を特別視した表現もあるが、そんな嘘は何も特別なものではない。世の中に空気のように満ち溢れている。私たちは、息を吐くように優しい嘘を吐いているのだ。

時間がない人向けの要約『時間は存在しない』

正直に告白しよう。途中から良く分からない。

私の凡々たる思考では、にわかに理解できるものではなかった。というよりももっと時間が必要というべきか。

それにしても、宇宙という世界を前にして人類の科学技術は未解決問題ばかりで全く心もとない。一方で、今まで人類が蓄積してきた科学技術の知識と経験は途方もない量で、何かの災厄でそれらが失われたとしたら、取り戻すのに気が遠くなる程度には、難易度が一般人には容易に理解できない領域まで踏み込んでいる。人はだれしも知識ゼロの赤ん坊からスタートすることを考えると、いくら先人が露払いをし道を開拓したとしても、到達できる科学技術には頭打ちが来るのではないかと怖くなるところでもある。

理解はできなくても知的好奇心はある。学問というのは自分の理解できる範囲で理解する程度に収めるのが一番楽しい。自分の知的好奇心以外の何かに追われて学習する大変さは、学校教育の経験者なら誰もが通る道であろう。プロの研究者としての数学者の資質は体力だともいう。私は、頭が疲れて目がかすんできたら寝るだけである。

私は自分の理解を進めるために、読書と並行して要約する癖があるのだが、せっかくなのでそれを共有したいと思う。要約の性ではあるが、著者の文章を正確に要約したものではなく、私の理解を要約した側面があることに注意されたい。要約が正確とは限らない。そもそも私自身が正確に理解していないのである。

タイトルでは「時間がない人向け」と称していながら、要約がそれなりの量になっているのは、私自身が有意義に読書した証左でもある。この点で、私は本書を人にお勧めできる。時間という概念に興味のある方は、以降の要約など読まずに、原本を読んでいただきたい。ただし、要約にも一定の価値がある。本書は著者による話の脱線が少し多い。専門書や論文ではなくエッセイなのだから何を書くのも自由なのだが、読者の時間に対する知的好奇心とは一致しないエピソードの独白が多いのである。エッセイなのだからそれも含めて楽しむべし、と言いたいところではあるが、私は遠慮なく飛ばしてしまったので、人のことは言えない。

著者自身は、第一部は実験において結果が得られた裏付けのある事実としているが、第二部以降はあくまで有力な候補の一つであるといっている。そもそも科学とは誤りと修正の歴史でもある。いずれにしても、私たちが素朴に感じる時間の概念と、時間の本質には大きな隔たりがあることは確信できる。物理学では量子などの世界を構成する根本的な部分で時間は存在しなくなっている。では、私たちが経験している時間の正体は何か。それは物理学ではなく、脳科学や神経学にバトンを譲らなければならないのかもしれない。

時間は存在しない

時間は存在しない

第一部

第一部では、私たち人間が知覚している時間の概念を破壊することで、私たちの時間に関する知識と経験をゼロにリセットしている。

第一章:時間の崩壊

  • 時間の流れは均一ではなく、場所によって早かったり遅かったりする。そのことに気付いたのがアインシュタインであった。アインシュタインは考えた。太陽と地球はどうやって重力で引き合っているのか。太陽と地球の間にあるものは空間と時間だけである。ならば、太陽と地球が周りの時間と空間に変化をもたらしているはずだと。この考察からひとつの仮定が導き出された。物体は周囲の時間を減速させる。物体の質量が巨大であるほど、また物体に近いほど時間は遅くなる。実際に山の上の高所とその下の低地では、低地のほうが時間の流れが遅くなることが明らかになっている。重力によって物体が落下するのは、下のほうが地球による時間の減速が大きいからである。
  • 時間は唯一無二のものではなく、空間の各点に異なる時間が存在する。アインシュタインは個々の時間が互いにどう影響するかを考え、個々の時間のずれの計算方法を示した。時間は単一ではなくネットワークなのである。これがアインシュタイン一般相対性理論による時間の描写である。
  • 時間には単一性がない。

第二章:時間には方向がない

  • 過去から未来という一方向の時間の流れはいったい何なのか。私たちは、過去と未来を明確に区別している。しかし、意外なことにほとんどの物理法則は過去と未来を区別できない。これは、現在の状態から完璧な過去を再現することが可能であり、未来を確定できることを意味している。ニュートン運動方程式は、物体の現在の状態から、物体の過去あるいは未来の状態を算出することができる。
  • これらの過去と未来を区別しない物理法則は、総じて現在の状態を確定している。時には不確定要素を排除するための条件が前提となっている場合もある。現在の状態を正確にすべて考慮することができれば、過去と未来は再現可能になり、過去と未来を区別する時間の流れは喪失する。しかし、実際には現在の状態を全て正確に考慮することは不可能であり、私たちの知覚はぼやけている。ぼやけているからこそ、過去と未来を違うものだと区別できるのである。
  • 時間には方向性がない。

第三章:現在の終わり

  • アインシュタインは、質量の影響で時間の流れが均一ではないことを発見する前に、電磁気学の研究を通じて、速度が速いほど時間が遅くなることに気付いた。光速で運動している物体は時間の経過はゼロになる。
  • 太陽系から最も近い恒星系であるプロキシマ・ケンタウリはおよそ4光年の位置にある。いま私たちが観測するプロキシマ・ケンタウリの輝きは4年前にプロキシマ・ケンタウリが放ったものである。ここで、もしプロキシマ・ケンタウリに我々と同等の生命がいて同じように太陽系の輝きを観測していたらどうなるだろうか。現在の私たちが観測しているのは4年前という過去のプロキシマ・ケンタウリであるが、現在の私たちを観測するプロキシマ・ケンタウリは4年後という未来のプロキシマ・ケンタウリになる。まるで文通である。太陽系とプロキシマ・ケンタウリでは現在を共有することができない。
  • 現在とは宇宙全体に広がらず、自分たちを囲む泡のようなものだ。現在という時間の幅をどれくらいとるかによって、その泡の大きさは変わる。私たち人間が識別できるのはせいぜい十分の一秒程度なので、これは地球全体が一つの泡に含まれる程度になる。しかし、光速で隔てられた距離ではそれぞれの場所にそれぞれの現在がある。
  • 普遍的な現在は存在しない。

第四章:時間と事物は切り離せない

  • アリストテレスは時間とは変化を計測したものと主張し、ニュートンは何も変化しなくても経過する時間があると主張した。この二人の巨人の主張は真っ向から対立している。結論から言えば、この二つの主張はどちらも正しく、どちらも間違っていた。この二つの考えを統合したのがアインシュタイン重力場の概念である。
  • ニュートンが直感した何も変化しなくても経過する時間は存在した。時間は物質が存在しなくてもそれ自体として存在する。しかしそれは絶対的な存在ではなく、物質と相互に影響しあうものであった。アインシュタインはこれを重力場と表現した。重力場は真っ平ではなく、物質の存在によって伸びたり縮んだりして歪んでいる。重力によって球が落下するのは、重力場の歪みの勾配を球が転がっているのだと表現できる。
  • 時間は独立した絶対的なものではなく、事物と相互に影響している。

第五章:時間の最小単位

  • 量子の世界にも時間は存在する。ゆえに時間は量子の性質とも相互に影響している。量子力学によって発見された、粒状性、不確定性、関係性の三つの特徴は、時間の概念をさらに複雑にした。
  • 時計で計った時間は「量子化されている」と表現される。これはいくつかの値だけを取って、ほかの値は取らないということが可能であり、まるで時間が糸ではなく粒のように扱えるからである。時間は連続した線ではなく、不連続な点なのである。この粒には最小の単位、つまり最小の時間の幅がある。これをプランク時間という。
  • 量子は次の瞬間にどこに移動するかは予測できない。これを量子の不確定性という。量子は確率の雲の中に散っており、量子ほどの小さい時間の中では、過去と未来の違いも確率の雲の中に散ってしまう。
  • 量子の位置は予測できなくても確定することはできる。量子は相互に影響する物理的な対象に対してのみ具体的な存在になる。それ以外の存在に対しては不確かさが伝播するのみである。これを量子の関係性という。
  • 時間は不連続な粒であり、不確かで、相互作用によってのみ具現化する。

第二部

第二部では時間のない世界がどのようなものかを理解していく。

第六章:この世界は、物ではなく出来事で出来てる

  • 物とは、しばらく変化が見られない出来事でしかなく、しかも塵に返るまでの期間の状態でしかない。すなわち物を把握するということは、その出来事を把握していることになり、物そのものを把握することはできない。

第七章:語法がうまく合っていない

  • 私たちが、現在・過去・未来にとらわれているのは、使用している言語の語法によるものでもある。私たちの言葉は過去・現在・未来の違いを「あった」「ある」「あるだろう」と区別してる。しかし、上・下という概念が地球規模では意味を持たなくなるように、過去・未来も同様に普遍的な意味を持たない。ただ私たちの言葉は、普遍的な意味を持たない過去・未来を包括てきていないのだ。

第八章:関係としての力学

  • 量子力学では既に時間という変数の存在しない方程式が成り立っている。空間は量子の相互作用のネットワークによって生まれる。それは時間の中にあるものではなく、間断ない相互作用によってのみ存在する。その相互作用が世界のありとあらゆる出来事の発生であり、時間の最小限の形態なのである。
  • 時間と空間は、時間と空間とは関係のない量子力学の近似なのだ。そこに存在するのは、量子の相互作用と、それによって生まれる出来事だけ。そこは時間のない世界である。

第三部

第三部ではまっさらになった時間の概念を再構築していく。

第九章:時とは無知なり

  • 時間は時間のない世界から生じる。
  • マクロの状態にある特定の変数は、時間のいくつかの性質を備えている。第二章で述べたことでもあるが、マクロな状態、つまりぼやけが時間を決めているのである。ぼやけが生じるのは、世界が夥しい数の粒子からなっており、かつその粒子は量子的な不確定性を持っているからである。
  • 量子は測定する順番が重要で、速度を測ってから位置を測るのと、位置を測ってから速度を測るのでは結果が異なる。これを量子変数の「非可換性」という。量子は相互作用によって具現化し、その結果は相互作用の順序に左右される。この順序が、時間の順序の始まりである。

第十章:視点

  • 過去と未来の違いはエントロピーの違いにある。エントロピーは乱雑さであって不可逆である。エントロピーは減少するとはなく常に増大する。とすると過去はエントロピーが低い状態と言える。なぜ過去はエントロピーが低かったのか。
  • 時間に方向性があるのは、宇宙の仕組みではなく、宇宙と私たちの相互作用の仕組みである。私たちは私たちの世界を内側から見ている。私たちにとって天空は回っているが、それは宇宙が回っているわけではない。私たちが回っているから、天空が回って見えるのだ。時間にも同じことが言える。時間の流れは宇宙にあるのではなく、私たちに見えているものなのだ。

第十一章:特殊性から生じるもの

  • この世界を動かすのはエネルギーではなくエントロピーである。エネルギーは保存されるため、生み出されることもなければ消失することもない。にもかかわらず、私たちは同じエネルギーを使い続けることができず、常に供給し続けなければならない。実は私たちに必要なのは、エネルギーではなく、低いエントロピーを高いエントロピーに変換する過程そのものなのである。エネルギーはその媒介に過ぎない。
  • 宇宙はそれを構成する量子の相互作用によって緩やかにエントロピーを増大させている。生命ですらエントロピーの増大の過程で生まれた。生命は秩序だった構造をしているように見えるかもしれない。しかし、より低いエントロピーを食物から得ているだけで、生命は自己組織化された無秩序なのである。
  • 過去は現在に痕跡を残す。痕跡が残るのは何かが動くのを止めるからである。これは非可逆な過程で、エネルギーが熱に変化するときに起こる。熱が存在しなければ痕跡は残らない。私たちはその痕跡を知覚してその結果に先立つ原因を捉えるようになる。これらは、過去のエントロピーが低いという特殊な事実から生じる結果であり、その特殊さは私たちのぼやけた視点にとって特殊なのである。

第十二章:マドレーヌの香り

  • 第六章では世界の成り立ちは物ではなく出来事だと述べた。では「わたし」という存在はいったい何か? 私たちも有限な出来事なのである。しかし、私たちには自己を統一した存在として認識するアイデンティティがある。このアイデンティティを確立させる重要な要素が記憶である。
  • 記憶はエントロピーの増大によって過去が現在に残した痕跡である。私たちはメロディを聞いたとき、一つの音の意味はその前後の音によって与えられている。現在というその一瞬では、私たちは一つの音しか聞けないのに、メロディの美しさに感動することができる。時間が精神に存在すると考察したのはアウグスティヌスであった。
  • 時間とは私たちヒトと世界との相互作用の結果であり、私たちのアイデンティティの源である。

蝗害は昆虫の生態として見ても怖い

いまコロナウイルスの被害が広がりつつある一方で、東アフリカではサバクトビバッタが大量発生し蝗害を引き起こしている。

日本では馴染みがない蝗害。日本の場合は地勢、気候、天敵の関係から大規模な蝗害は発生しない。小規模なものは発生していて、限定的な条件でトノサマバッタが蝗害となる例がある。蝗はイナゴと読むが、イナゴは蝗害を引き起こさない。

ここで、蝗という言葉の意味について整理したい。相変異によって群生相となるバッタをワタリバッタ、あるいはトビバッタという(相変異については後述)。蝗(コウ)という漢字はワタリバッタを意味し、これが集団で移動する現象を飛蝗(ヒコウ)、これによる害を蝗害(コウガイ)と呼ぶ。日本では古来から蝗害に馴染みがなかったため、蝗の意味が曖昧になりイナゴの訓読みがあてられた。このため、日本の場合、蝗害とは昆虫による農被害全般を指す場合がある。なおバッタには飛蝗の字があてられている。

サバクトビバッタを始め、イナゴを除いたバッタ類は食用には向かない。相変異によって体が硬く食べても消化不良を起こすことと、農薬によって汚染されているためである。毒素は共食いによってさらに凝縮される。そもそも大量発生するバッタが容易に食べられるのであれば、蝗害による飢饉など歴史上発生しなかったことになる。イナゴを食べる日本人ですらトノサマバッタは食べない。ただし、粉末状にするなど現代の技術を用いて食用を目指す試みもある。

蝗害は古代からある天災のひとつである。人間の神経回路は強固であるほど遺伝して先天的に備わることになるので、人間の遺伝子レベルでバッタに対する忌避があってもおかしくはない。バビロニア神話における悪魔パズズは蝗害を具神化した存在とも考えられている。食べ物の恨みは恐ろしいのである。

イナゴは相変異しないので蝗害を起こさないが、サバクトビバッタトノサマバッタは相変異するので蝗害を起こす。相変異とは、個体群の密度に応じて形質が変化することである。個体群の密度が低い場合は孤独相をなし、一般的に日本でよく見るトノサマバッタは孤独相の状態のものである。個体群の密度が高くなると、数世代を経て群生相となる。相の変化は世代を越えて引き継がれる。

群生相のバッタには孤独相にはなかった以下の特徴が現れる。

  • 攻撃的になり、対象となる食物の範囲が広がる。孤独相では食べなかったものを食べるようになる。
  • 翅が大きくなり、飛翔能力が高くなる。より長距離を移動するようになる
  • 足が小さくなり、跳躍能力が低くなる。
  • 体色が黒くなる
  • 卵を産むまでの期間が長くなり、産卵数がすくなくなる
  • 寿命が短くなる
  • 孤独相ではほかの個体を避けるが、群生相ではほかの個体に近寄るようになり群れを形成する

飛蝗の端緒は、多雨や干ばつなどの環境バランスの変化である。多雨によって豊富にえさが提供された結果、個体群密度が高くなる場合と、干ばつによって少なくなったえさに群がった結果、個体群密度が高くなる場合がある。相変異して群生相となった個体が増えると飛蝗が始まる。移動しながら一帯のえさを食べつくすため、いずれ群れは維持できなくなる。飛蝗が収束して個体数が減ると、個体群の密度が減るので、再び相変異して群生相から孤独相へ戻っていく。

孤独相のバッタと群生相のバッタは見かけが明らかに違うために、長らく別種と考えられてきた。これらが同種の変異であることが発見されたのは二十世紀になってからである。

日本において大規模な蝗害が発生しない理由の一つは天敵の存在である。カマキリやクモなどの肉食性の大型の昆虫・節足動物、カエルなどの両生類、トカゲなどの爬虫類、昆虫を食する哺乳類などがあげられる。昆虫に寄生するエントモフトラ属のカビも天敵である。昆虫の世界は怖い。

飛蝗は、数多の淘汰圧にさらされながら環境に適応してきたバッタたちのメカニズムであると考えれば、バッタという種の存続に有利に働いていることは明確である。昆虫の生態には人間の感覚からしてえげつないものも多いが、この相変異も人間の感覚からしたら共感しづらいものと言えそうである。人間が満員電車を嫌うように、バッタも好きで群れているわけではあるまい。群生相の特徴である体色が黒くなく現象はストレスに対する生理反応だとする説もある。バッタもバッタで種の存続のためには背に腹は変えられないのである。

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ドラクエビルダーズ2にハマる

こんにちは、弥生です。

掲題の通り、ドラゴンクエストビルダーズ2 にハマっています。というのも、2019年12月11日に steam 版が発売されたからです。年末年始からずっと遊んできているので、今回は steam 版のドラクエビルダーズ2を紹介します。

新しいアイデアは既存のアイデアの組み合わせ

ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島』(以下、DQB2)は、公式ではジャンルを「ブロックメイクRPG」としていますが、そのゲーム性の根底は『マインクラフト』が世に知らしめた「サンドボックス」であることに異論はありません。ドラゴンクエストという世界観と、サンドボックスというゲーム性という、二つの既存のアイデアを組み合わせて、新しいゲーム体験を生み出したのが、前作の『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』(以下、DQB)です。今作、DQB2 はその流れを汲んだ正統な続編です。

ちなみに、前作DQBは発売元も開発元もスクウェア・エニックスですが、今作DQB2は発売元はスクウェア・エニックスなのに対して、開発元はコーエーテクモゲームスオメガフォースです。私は前作をプレイしていませんが、両方プレイしている人には、何か違いを感じたりすることがあるのでしょうか。

ストーリー

ストーリーは、モンゾーラ、オッカムルなどの5つの大きなステージと、その間に挿入されるからっぽ島の開拓で進みます。この複数のステージ展開は、ゲームとしてのレベルデザインの目的と、ストーリーとしての物語展開の、両方の目的を上手く達成しています。ストーリー自体には目新しさはないかもしれません。むしろ、ストーリーというのは目新しさとか古めかしさとか関係なく、王道を行けばよいのだなと思わせてくれる手堅い出来です。ストーリーには一貫性があるので、全然ダレません。

ドラクエシリーズは伝統的に主人公が無個性ですから、周りのキャラクターの個性は重要です。DQB2でも、シドー、ルルを始めとして各ステージのキャラクターの個性がしっかりしています。ドラクエの主人公に共通する茫洋としたイメージを漏れなく持っている主人公に対して、ルルがツッコミを入れる場面などがあり、ただドラクエを踏襲するのではなく、よりメタに進化している作品だと感じます。

キャラクターがしっかりしているので、そのセリフに時折ハッとさせられることや、グッとさせられることは請け合いです。

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ドルトンさん、良いこと言うなぁ

サンドボックスというジャンル

私はマインクラフト未経験なので、比較することは出来ません。ただしマインクラフトが広大なフィールドを冒険する楽しみ方があるのに対して、DQB2は限られたフィールドと限られたストーリーという枠組みが明確にあるので、DQB2は最終的にはフリー建築を楽しむというところに行き着きます。

この点ではマインクラフト経験者が同じ感覚でプレイしようとすると肩透かしを受けるかもしれません。マインクラフトとDQB2は似ているようで、全く別のゲームと言えるかもしれません。上手く住み分けができているとも言えます。

steam 版について

steam 版は今までのダウンロードコンテンツがセットになって、それでいてPS4版の本体よりも安いです。それだけでなく、前作の特典なども全て含まれています。いずれPS4にも廉価版が発売されると思いますが、遊べるPCがあるのであれば、現時点では steam 版が一番お得です。

あとは、派生作品とは言え、ドラゴンクエストを steam で遊べるというのが、ひとしおの感慨があります。もう、マルチプラットフォームは当たり前になりつつありますね。スマホアプリ向けのリメイクや移植ついでに steam でも発売されるタイトルは、えてしてPCでゲームをするにあたって最適化されていない事例もありますが、DQB2 に関してはきちんと出来上がっています。

体験版について

steamでは体験版が公開されていますが、これがまた大盤振る舞いです。体験版とは思えないボリュームで、モンゾーラ編のクリア手前まで遊べます。これはストーリー全体の五分の一くらいは遊べるボリュームです。体験版だけでも10時間くらい遊べます。かなり贅沢な体験版です。体験版を最後までプレイするようなら、もう買いですね。私の場合、年末年始の休みが体験版で消化されました。

steam 版のキーボート操作について

steam 版はキーボードとマウスでも遊べます。私は体験版をキーボード操作で遊びましたが、やはりゲームパッドのほうが操作感は良いです。キーボードでの操作は慣れるまでに時間が掛かりますが、ゲームパッドならほとんど直感的に操作できます。これはPCげームに慣れているかどうかにもよりますね。単純にクリアするだけなら、キーボードとマウスでも十分ですが、サンドボックスゲームならではの細かい建築をするなら、ゲームバッドのほうが快適だと思います。このあたりはマインクラフトはどうなのでしょうか。

伝統的なドラクエブランドのなつかしさ

本作DQB2の下地になっているのは、いうまでもなくドラゴンクエスト2です。30年余りも前の作品なのでプレイしたことがない人も多いと思います。かく言う私もFC版を遊んだことはなく、リメイクされたSFC版で遊んだことがあるのみです。1993年のことですね。ちなみに、私の初めてのドラクエは5でした。

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SFC版のパッケージが懐かしすぎる

DQB2を遊ぶと、時折ドラクエ2を遊んでいたころの子供の頃の思い出が鮮明によみがえることがあります。SFCドラクエ2のプレイ体験と、子供の頃の全体の記憶が、神経回路で連結しているのでしょうね。当時の記憶のセットが、ドラクエ2という鍵で開く感じです。

ドラクエシリーズの作曲家で知られるすぎやまこういちさんは、「音楽は心のタイムマシーンです」と表現しています。私にとって、ドラクエシリーズこそがまさにタイムマシーンです。

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確信を突くペロちゃん(破壊は創造の礎なり)

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最近は、この物欲(このクッション欲しい…)と戦っています。

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パンク対策の持ち物(6年目サイクリストの場合)

こんにちは、弥生です。

私は、2014年にクロスバイクを購入して以来、スポーツバイクに親しんできました。ロードバイクを購入したのが2015年ですから今年で6年目になります。普段は、関東の平地ばかりを走っている日曜サイクリストです。ブルベも時折参加していますが、山岳を走り切る足を持っていないので、難易度の低いものしか完走していません。

ロードバイクに乗っているサイクリストは、必ず何かしらのパンク対策をしていると思います。しかしその対策は人によって千差万別です。それは、人によって得てきた経験とトラブルに対する想定が違うからです。

私自身もパンク対策でいくつかの持ち物を携行していますが、乗り始めの頃と比べると変遷がありました。この記事では、パンク対策を目的に、現在の私が何を想定して、何を持っているのかを紹介します。

携行しているもの

  • 予備のチューブ(2本)
  • タイヤブート
  • インフレーター(ブルベなどの時だけ持つ)
  • 輪行袋
  • タイヤレバー
  • 携帯ポンプ

今は携行していないもの

  • パンク修理キット(自宅の工具箱には入れてある)
  • 携帯工具

パンク修理キット

たぶん、何かしらのパンク修理キットを持っている人は多いのではないでしょうか。かく言う私も、常に持っている状態が長かったですが、実は最近はパンク修理キットを持っていません。

その最大の理由は使う機会がないということにつきます。

なぜ使う機会がないかというと、チューブの穴を特定してゴムのりを塗ってパッチを貼るという手順が、路上で行う作業にしては難しい、というか信頼性の低い作業だからです。自転車屋のおじさんならともかく、年に数回しかパンク修理をしない日曜サイクリストの私には、たとえ修理したとしても空気がダダ洩れするリスクをもった難しい作業です。私は、パンク修理キットを長らくサドルバッグに入れていましたが、パンク修理キットで修理したことは一度もありません。パンクしたときは、毎回予備のチューブと交換です。

パンク修理キットはむしろ自宅でゆっくり修理するときに向いています。チューブもそれなりに高いですからね。まだまだ使えるチューブはパンクくらいでは捨てられません。

また、パンク修理キットにはゴムのりなるものがありますが、このゴムのりにもちょっとした問題があります。ゴムのりは揮発性が高いので、しばらく使っていないと中身がからっぽになっていることがあるのです。いざ使おうと思ったらゴムのりがない、という状況があり得ます。この点でも、パンク修理キットは携行しづらいです。パンク修理キットは、必要になったときにその都度買うというのが良さそうです。

なので、私はパンク修理キットを持っていません。パンクしたら予備のチューブを使い、予備のチューブが切れたら、潔く諦めて輪行します。

予備のチューブ

上述の通り、パンクへの対応を予備のチューブに頼っている以上、予備のチューブは必須であり生命線です。問題は予備のチューブを何本持つかです。1本はまず確実に持つ必要があるとして、200kmのブルベで2回パンクした経験をもつ私は、ブルベなどの本番環境では2本くらいは持っておきたい。周りを見てみると、それ以上持っている人も少なからずいます。

チューブを1回交換するのに、例えば15分かかったとしたら、4回交換すると1時間になります。200kmのブルベだとしたら1時間のロスはかなり大きいです。制限時間がある環境だと、たくさん持っていても意味がありません。辛いのは、年に数回あるかないかの作業なので、いつまでたっても作業に慣れなず、時間が短縮されないということです。パンク対策として持つべきは、チューブ交換のスキルなのかもしれません。

タイヤブート

タイヤブートはあると非常に心強いです。ただ、心強いからと言って、出番があるかというと、正直なところ、ないです。そもそもパンク自体がほとんどしない中で、タイヤが切れるようなトラブルは滅多に起きません。私は、一度だけ路肩のねじ釘を踏みつけて、後輪のタイヤが破損したことがありますが、2015年からロードバイクに乗っていてタイヤが破損したのは、その一度だけです。

とはいえ、パンクするときはパンクしますし、タイヤが切れるときは切れます。予備を持っていなければ自力ではどうしようもなくなります。タイヤの予備を持つのはちょっと難しいですが、タイヤブートくらいなら全くかさばりませんからね。あまりにも存在感が無いので、いざタイヤブートが必要な時に、タイヤブートを持っていることすら忘れていそうですが。

滅多に発生しないけれども、発生したら致命的なトラブルに対して、どれだけ対応しておくかは難しいところです。

インフレーター

コスパは最高に悪いですし、かさばるのでなんだこれって感じですが、ブルベのような背に腹は代えられない状況では、悪魔のささやきのような魅力を持っているのが、このインフレーターです。

とにかく、携帯用のポンプの性能がイマイチすぎる。すべてはこの事実につきます。パンクして、疲れている体で携帯ポンプを使わざるを得ないときには、それこそフロアポンプを背負って走るほうがマシかもしれないと錯覚を起こすくらいには、辛い作業になります。

しかし、インフレーターがあれば、一瞬でチューブに空気が入りタイヤがパンパンになります。普段使うことはないと思いますが、ブルベなどの本番環境でここぞというときに頼りになります。ただし、ボンベの高圧ガスをチューブに入れるという特性上、使い捨てになるのが非常にもったいない。失敗したら無駄打ちになります。難しい手順ではないとはいえ、たまにしか使わないと使うたびにドキドキします。

できれば持ちたくないものの筆頭です。普段は携行せず、ブルベ本番などだけ携行します。

携帯ポンプ

携帯ポンプなど持たずに、できればフロアポンプを背負いたい。しかし、それはあまりにも現実的ではない。強いジレンマを持ちつつも、結局持たざるを得ないのが、この携帯ポンプです。なにせ、これがなければチューブに空気が入りませんから。時々しか使わないから、使い方すら怪しい。携帯ポンプと言いつつもそこそこかさばりますし、携帯用に小さくするほど使い勝手は反比例するので、携帯ポンプはパンク対策における最大のボトルネックだと私は考えています。技術的なブレイクスルーが期待されます。

輪行袋

これは果たしてパンク対策なのか? という印象ですが、輪行袋は必須です。私の場合は、それこそ数十キロ走るような軽いサイクリングでも常に携行しています。私はブルベでは悪天候で DNF したこともありますし、長距離になればなるほど、どんなトラブルが起きるか分かりません。輪行袋がないと、自走でしか帰る手段がないので、場合によっては途方に暮れることになります。輪行袋さえあれば、公共の交通機関などを使って帰ることができます。

パンクだけでなく、あらゆるトラブルに対する最後の砦、それが輪行袋です。

携帯工具

携帯工具と言いつつ携帯しないとはこれいかに。

結局、なんだかんだで使わないのは、パンクなどのトラブルでは出番になることがほぼないからです。機材を交換したときに、調整しながら走るという時くらいしか使ったことがないです。サドルの高さとか、ディレイラーの調整は、一度やってしまえばあとは必要ないですからね。自転車の構成がある程度固まってしまえば、使うシチュエーションがないのです。

ましてや、サドルの調整やディレイラーの調整くらいなら、ドライバーと六角レンチを一本ずつ持てばいいので、そもそも携帯工具なんていらないのです。携帯工具は意外と地雷アイテムなのではないかと思うほどです。

タイヤレバー

これは必須です。これがないとチューブ交換するときにタイヤが外せないです。素手でも外せないことはないとは思いますが、私の場合は素手でタイヤ外しに四苦八苦してから、そういえばタイヤレバーがあったなと思い出します。かさばるものではないですし、持っておいたほうが良いです。

まとめ

まとめてみると、私の機材トラブルに対する対応能力は、総じて低いです。これはトラブルに対して最終的に頼っているのが輪行袋だからです。そして、輪行袋に頼れるのは、普段、公共交通機関の厚い関東周辺を走っているからです。東京の都心を走るのと、アメリカの原野を走るのでは、当然装備は変わってきます。みなさんも、自分の装備が、自分のサイクリング環境に最適かどうか見直してみてはいかがでしょうか。

【Factorio】Everything, Anything, Each【回路ネットワーク】

回路ネットワーク 難易度
基本編 ☆☆

今回は、以下の三つの論理シグナルを説明します。

  • Everything(すべて)
  • Anthing(いずれか)
  • Each(それぞれ)

シグナルの種類

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シグナルのチャネル

論理シグナル以外を、以下では通常シグナルと呼んでいます。通常シグナルは回路ネットワーク上に出力できる信号です。論理シグナルは回路ネットワーク上に出力できません。

入力信号の条件としての論理シグナル

Everything(全て)

真の条件:

  • 入力信号の全てが条件を満たすとき真となる
  • 入力信号が無いとき真となる

偽の条件:

  • 入力信号のいずれかが条件を満たさないとき偽となる

入力信号が無いとき真となることに注意が必要です。

Anything(いずれか)

真の条件:

  • 入力信号のいずれかが条件を満たすとき真となる

偽の条件:

  • 入力信号の全てが条件を満たさないとき偽となる
  • 入力信号が無いとき偽となる

Each(それぞれ)

真の条件:

  • 個々の判定のみで、全体の判定を行わない

偽の条件:

  • 個々の判定のみで、全体の判定を行わない

Each は入力信号の真偽判定という観点では Anything と同等の振る舞いをします。より正確に表現すると、Everything や Anything は個々の入力信号を条件で判定したうえで、全てが真か、いずれかが真かという論理判定を行いますが、Each では個々の入力信号を条件で判定するだけです。Each は全体の真偽判定を行いません。Everything と Anything に比べて、Each はそもそも振る舞いが違います。両者の違いは、出力に現れます。

出力信号としての論理シグナル

入力:Everything(全て)

出力信号に通常シグナルを使った場合:
  • 入力信号の「全て」が真だった時に、任意の通常シグナルを「1」個出力する
  • 入力信号の「全て」が真だった時に、任意の通常シグナルを「入力数」個出力する

「入力数」個出力する場合の「入力数」は入力信号のチャネルに縛られるため、入力信号以外の信号を「入力数」個、出力することはできません。

出力信号に論理シグナル「全て」を使った場合:

入力信号の条件として「全て」を使用した場合、出力信号に使える論理シグナルは「全て」だけです。

  • 入力信号の「全て」が真だった時に、入力信号の「全て」を「1」個、出力する
  • 入力信号の「全て」が真だった時に、入力信号の「全て」を「入力数」個、出力する

入力信号がないときに「全て」が真になった場合は、「全て」を出力にしても、入力信号が無いので、何も出力されません。

入力:Anything(いずれか)

出力信号に通常シグナルを使った場合:
  • 入力信号の「いずれか」が真だった時に、任意の通常シグナルを「1」個出力する
  • 入力信号の「いずれか」が真だった時に、任意の通常シグナルを「入力数」個出力する

「入力数」個出力する場合は、出力するシグナルの入力信号が条件を満たしている必要があります。入力信号以外の信号を「入力数」個、出力することはできません。

出力信号に論理シグナル「全て」を使った場合:

入力信号の条件として「いずれか」を使用した場合、出力信号に使える論理シグナルは「全て」だけです。

  • 入力信号の「いずれか」が真だった時に、入力信号の「全て」を「1」個、出力する
  • 入力信号の「いずれか」が真だった時に、入力信号の「全て」を「入力数」個、出力する

入力信号の「全て」を出力するので、条件を満たしていない入力信号も出力します。条件を満たした入力信号のみを出力したい場合は、Each(それぞれ)を使います。

入力:Each(それぞれ)

出力信号に通常シグナルを使った場合:
  • 条件を満たした「それぞれ」の入力信号につき、任意の通常シグナルを「1」個出力する
  • 条件を満たした「それぞれ」の入力信号につき、任意の通常シグナルを「入力数」個出力する

通常シグナルで出力する場合、その出力数は条件を満たした入力信号の各出力数の総和になります。これは、入力信号が「それぞれ」条件判定され、出力信号が「それぞれ」から出力されているイメージです。論理回路が最終的に出力する信号の量は「それぞれ」の総和になります。

つまり、 * 出力数に「1」を指定した場合、出力されるのは条件を満たした入力信号のチャネルの数 * 出力数に「入力数」を指定した場合、出力されるのは条件を満たした入力信号の総量 を表します。

この時の出力数は入力信号のチャネルに縛られないため、入力信号以外の信号を出力することができます。

出力信号に論理シグナル「それぞれ」を使った場合:

入力信号の条件として「それぞれ」を使用した場合、出力信号に使える論理シグナルは「それぞれ」だけです。

  • 条件を満たした「それぞれ」の入力信号を、「それぞれ」「1」個づつ出力する
  • 条件を満たした「それぞれ」の入力信号を、「それぞれ」「入力数」個づつ出力する

以上です。

論理シグナルは取っ掛かりは複雑な印象を受けますが、実は単純な動きをしています。難しいと思う方は、実際に動かしながら、その挙動を確認してみてください。

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【Factorio】Kovarex濃縮プロセス【回路ネットワーク】

回路ネットワーク 難易度
実践編

Factorio では原子力発電まで手を出さなくても、ロケットを打ち上げてクリアすることが可能です。ただし、工場を大規模化していくと、間違いなく誰もが行き着くのが原子力発電です。

原子力発電を運用すると、蒸気機関に比べて、面積占有的にも、材料消費的にも、高効率であることが体感的に分かります。ただし、これは、燃料棒の生産が安定して初めて言えることです。燃料棒の熱量は1本あたり 8GJ で、石炭1個が 4MJ であることを考えると、その効率の高さが伺えます。1個のウラン235から10本の燃料棒が作れます。原子力発電のボトルネックウラン235の生産にあります。

10個のウラン鉱石は遠心分離機によって、0.7%の確率で1個のウラン235が、99.3%の確率で1個のウラン238が生産されます。10000個のウラン鉱石からウラン235がとれる見込みの個数は、たったの7個です。しかも、確率なので、10000個のウラン鉱石を消費して、1000個すべてがウラン238の可能性もあります。

したがって、遠心分離機でウラン鉱石を精錬するだけでは、原子力発電は滞ります。そこで用意されているのが、Kovarex 濃縮プロセスです。

消費 数(個) 生産 数(個)
ウラン235 40 ウラン235 41
ウラン238 5 ウラン238 2

これは、簡単に説明するならば、3個のウラン238から1個のウラン235を生産するものです。遠心分離機が10個のウラン鉱石から0.7%の確率で1個のウラン235を生産するのと比べると、格段の差があります。ここまで来てようやく、安定した燃料棒を供給するだけのウラン235を用意することができます。

ただし、Kovarex 濃縮プロセスには、ほかの設備にはない一つの特徴があります。それは、材料として入れたアイテムと同じアイテムが、数量だけ変えて製品として出てくるという点です。したがって、ラインを組もうとすると、今までとは違う工夫が必要になります。

今回は、原子力発電に必須ともいえる Kovarex 濃縮プロセスを効率化するための回路ネットワークを紹介します。

動作確認

まず、最初に動作から確認しましょう

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ウラン235の余剰の1個は下流へと流れ、ウラン238は必要数だけ搬入しています。

レイアウトと仕様

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レイアウト(クリックすると拡大します)

解説

Kovarex 濃縮プロセスの最大の問題は、吐き出されたウラン235、41個と、ウラン238、2個のうち、余剰分のウラン235、1個を除いた残りを、再び材料として再投入したい、という点です。

入力と出力のアイテムが同じため、搬入ラインと搬出ラインを安易につなげると、ラインに材料(ウラン238)が充満したときに、搬出が行われず稼働が停止します。そこで、今回は、ウラン238の搬出ラインと搬入ラインを分けています。

1:フィルターインサータ(ウラン235搬出用)

生産したウラン235、41個を搬出します。搬入用の2番の高速インサータとスタックサイズを合わせています。

2:高速インサータ(ウラン235搬入用)

ウラン235を搬入します。スタックサイズを2にすることで、ラインの上流から流れてきた41個のウラン235のうち、必要な40個を遠心分離機に搬入し、余剰の1個を下流に流します。搬出用の1番のフィルターインサータと速度を合わせるため、高速インサータにしています。

3:フィルターインサータ(ウラン238搬出用)

生産した2個のウラン238を搬出します。搬出した2個のウラン238は、再搬入用のインサータによって再び遠心分離機に搬入されます。4番のインサータと回路ネットワークで接続しており、3番のインサータが動いたとき、4番のインサータが動きます。これにより、遠心分離機には常にピッタリ5個のウラン238を搬入することになります。

4:ロングアームインサータ(ウラン238搬入用)

Kovarex では、ウラン238を5個搬入して、3個消費し、2個搬出します。消費した3個分のウラン238を補充するのがこのインサータの役割です。3番のインサータと回路ネットワークで接続しており、3番のインサータの稼働に合わせて稼働します。搬出1回につき、搬入1回しか行わないので、スタックサイズが3になっていることが重要です。研究の進捗具合でスタックボーナスを得ていない場合は、スタックインサータなどで代用する必要があります。

5:高速インサータ(ウラン238"再"搬入用)

レイアウト画像には番号を振っていませんが、右側中央の高速インサータです。このインサータは回路には繋がず、スタックサイズも変更しない、バニラの状態です。単純に搬出された2個のウラン238を再び遠心分離機に搬入します。

課題

動かしてみると、ケーブル一本で構築できる割には期待通りに動きます。このレイアウトの良いところは、遠心分離機をラインに沿って拡張できるので、生産量を調整しやすいところです。ちょっとした原子力発電くらいなら、Kovarex は一台でも十分ですが、発電規模に応じて増設していくことができます。

ただし、課題が全くないわけでもありません。

  • 初期状態から動かすには、手動でウラン235ウラン238を入れる必要がある(ラインに材料を流せば全自動で稼働するわけではない)
  • 遠心分離器内に80個のウラン235を保持してしまう(40個分余剰を持ってしまう)

みなさんはどのように Kovarex 濃縮を行っていますか?

Factorio

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