長々と『ハイペリオン』の内容をまとめてきましたが、これで最後です。 巡礼者たちが自らの物語を語りながら、<時間の墓標>を目指す行程をまとめました。
一日目
- 聖樹船<イグドラシル>で巡礼者たちが低温睡眠から目覚める
- <イグドラシル>船内で巡礼者たちが食事をとる
- 司祭の物語
- 夕刻、ハイペリオン、キーツ市の宇宙港へ降下
- シオ総督と領事の再会
- <シセロの店>で食事をとる。
- A・ベティックが巡礼一行を艀(ベナレス)に案内する
- フーリー河の水路を通り、シュライク大聖堂跡で、ヘット・マスティーンと合流する
二日目
- 朝、ベナレスがカーラ閘門を通過
- ベナレス船上で朝食をとる
- 兵士の物語
- 日没のおよそ一時間前、ベナレスが<水精郷>に到着
- マンタを休息させてから<水精郷>を出発
- ベナレス船上で夕食をとる
- 詩人の物語
三日目
- 正午、ベナレスが<叢縁郷>に到着
- 風莢船が到着すまで待機する
- 日没、A・ベティックたちと別れる。まもなく、風莢船が到着
- 風莢船にて夕食をとる
- 学者の物語
- アウスターの攻撃が始まり、<イグドラシル>が炎上する
四日目
- 朝、ヘット・マスティーンの失踪が発覚する
- 午後の半ば、風莢船が<巡礼の休息所>に到着
- <馬勒山脈>を越えるため、ゴンドラに乗り換える
- ゴンドラ内で夕食をとる
- 探偵の物語
五日目
- ゴンドラが<時観城>に到着
- <時観城>にて夕食をとる
- ヘット・マスティーンらしき人物が墓標に向かって歩いているのを目撃する
- 領事の物語
六日目
- 夜明け前、<時観城>を出発
- 一行は徒歩で<時間の墓標>を目指す
- 『ハイペリオンの没落』へ
解説
巡礼一行にとっては目まぐるしい六日間だったと言えるでしょう。六日目以降は、物語は『ハイペリオン』から『ハイペリオンの没落』に移り、巡礼者たちはみな、環境的にも心理的にも極限状態へと向かっていきます。
それにしても、時間の墓標に至るまでの道のりは、旅の記録、紀行としての側面もあって十分に魅力があります。艀船でフーリー河を遡上するときのベナレスからの景色、風莢船からの眺望、ゴンドラから見た雲上の絶景。著者のダン・シモンズはハイペリオンの美しい眺めを描くことに余念がありません。この巡礼者たちの旅の過程が、商業的なツアーとして再現されたら、きっと盛況なことに間違いないでしょう。もっとも、巡礼の目的地は時間の墓標である以上、その旅はいつどこでシュライクに殺されようとも分からない危険なものです。巡礼の過程で見られる美しさは、巡礼者だけが見られる特権かもしれません。あるいは、強い意志によって巡礼をするその精神状態が、美しさをより鮮やかにしているとも言えます。
参考
感想
今回、『ハイペリオン』のあらすじや解説をまとめるに当たって、改めて思ったことは、ハイペリオンシリーズはやはり面白いということです。すでに何度読んだか分からない小説を、再び精読できたのは、その面白さの証拠だと思います。何度も読むことによって、その面白さがじわじわと分かる場合もあります。六つの物語のうち、司祭、兵士、学者、探偵の物語は率直に分かりやすい物語なのに対して、詩人と領事の物語は一見分かりづらく、何度も読むうちにじわじわとくる典型です。
それにしても長い。四部作全体で見れば、物語はまだ四分の一に過ぎないのです。続く『ハイペリオンの没落』についても、いつか何かしらの文章を書きます。
それまで、アデュー。いや、レイター・アリゲーター。
追記:そういえば、アデューというのはフランス語で「さようなら」の意味ではありますが、日本語の「さようなら」よりも重みがあり、「永遠の別れ」に近い、長い決別を意味するそうです。その原義は「神のもとへ」だとか。物語上でアデューを使うのはシリだったと思いますが、言葉の意味をより正確に知ると、行間の心理描写が際立ちますね。