弥生研究所

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解説『ハイペリオンの没落』1

前回、『ハイペリオン』の物語をまとめてから一年以上が経ってしまいましたが、続編である『ハイペリオンの没落』を、にわかにまとめます。これもまた長いので三回から四回に分けて。ひとつひとつの節に対して思うところを解説していきたいところですが、ひとまずあらすじを追うことを優先します。

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巡礼六日目の朝までが『ハイペリオン』、それ以降が『ハイペリオンの没落』の物語になります。ただし『ハイペリオンの没落』では、時間経過が定かではありません。意図して時系列が前後している節があります。これは、ハイペリオンでの描写はセヴァーンの夢という設定になっているからです。実は、『ハイペリオン』での巡礼者たちの物語も、それぞれセヴァーンが夢で見たものです。セヴァーンは何故か、ハイペリオンで起きた事実を、夢の中で知ることができます。セヴァーンが何者なのか、そしてなぜ夢の中でハイペリオンでの出来事を知ることができるのかは、物語で明らかになっていきます。

ハイペリオンの没落』の物語は、セヴァーンの身の回りで起きたことと、セヴァーンが睡眠中に見る夢=ハイペリオンの出来事の反復で構成されます。最初は夢と現実は明確に分離されていたので、夢の節は(セヴァーンの夢)と表記しています。しかし、後半=第三部(下巻)以降は、セヴァーンは眠らなくても夢を見られるようになり、ひとつの節の中で現実の出来事と夢の中(ハイペリオン)の出来事が錯綜しだします。

数字は小説内の部、節です。まずは第一部から。

あらすじ

1-1

FORCEの艦隊が出撃する日、ジョセフ・セヴァーンは政府高官が集まるパーティに招かれていた。彼には画家という肩書が付けられたが、少なくとも自認するアイデンティティは詩人、つまりジョン・キーツであった。パーティではある人物に話しかけられた。ダイアナ・フィロメルとその夫、ヘルムントである。サイブリットであるセヴァーンにとって、女に良からぬ過去があることを知ることは容易であった。艦隊の長大な光条が、パーティ客の注意をひとしきり掻っ攫った後、セヴァーンは CEO グラッドストーンに呼び出された。

1-2

それは、グラッドストーンを始めとする政府中枢の人間に対する、セヴァーンの自己紹介の機会であった。そこには、補佐官のリイ・ハント、FORCEのモルプルゴ大将とシン大将、AI顧問のアルベドも含まれていた。セヴァーンは、この歴史的な事件に際して、グラッドストーン肖像画を記録として残す役目を負っていた。しかし、それはあくまで建前上だ。グラッドストーンの目的は、セヴァーンがハイペリオンの出来事を夢で知っているという事実に対して、セヴァーンを宮廷画家として手元に置き、その情報を利用しようというものであった。

1-3(セヴァーンの夢)

六日目の朝から夜まで。夜明け前に出立した一行は、ほどなく<時間の墓標>にたどり着く。一帯をくまなく探索するも、シュライクと遭遇することはおろか、ヘット・マスティーンを見つけることもなく、なんら新しい手掛かりを得ることができなかった。

疲弊した一行は、ついにスフィンクスのかたわらでキャンプを設営し、夕食を取って夜に備えた。夜中、レイミアがふと目を覚ますと、同じテントにいるはずのホイトがいなくなっていることに気付く。テントの外はひどい砂嵐である。レイミアの姿に気付いたカッサードが、「あっちへ行った!」と<スフィンクス>を指さす。ホイトが出ていったのは、どうやらついさっきの事のようだ。カッサードはみなを置いてはいけないと言う。レイミアは単独で砂嵐の中ホイトを追うことにした。

1-4

セヴァーンは軍のブリーフィングに出席していた。といっても発言権があるわけではなく、宮廷画家としてその場にいるだけある。セヴァーンが理解したことと言えば、FORCEはいたく自信満々であることと、その説明の冗長さについてであった。セヴァーンはうんざりして、吸い込まれるようにしてバーへと入った。しこたま飲んで泥酔し始めたころ、ダイアナ・フィロメルが話しかけてきた。断片的な意識の中では、どうやらセヴァーンは彼女の肖像画を描くことになったらしい。

1-5(セヴァーンの夢)

カッサードはレイミアを追っていた。カッサードはレイミアにうそをついていた。レイミアを餌にすれば、シュライクが現れるだろうと踏んだのだ。

ホイトはレイミアの予想通り、<翡翠碑>の中に入っていた。ホイトは抑えられない激痛により、半ば狂乱状態に陥っていた。抗えない激痛が、彼を<翡翠碑>へと導いたのだ。レイミアは<翡翠碑>の中でホイトを見つける。しかし、そこにいたのはホイトだけではなかった。シュライクがいた。シュライクが消えたのち、ホイトは激痛が消えていることに気付いた。そしておびただしい出血とともにホイトは意識を失った。

1-6

セヴァーンとダイアナは一夜を共にし、気付くと翌朝であった。グラッドストーンとの約束の時間に十四時間も遅れている。目覚めると浴室に行き二日酔いの薬を探す。寝室に戻ると、そこにはごつい男が二人いた。逃げる間もなく、捉えられ、そして意識がもうろうとし始めた。自白剤を打たれたらしい。セヴァーンは、自らがサイブリットであることや、ハイペリオンでの出来事を夢で見て、それをグラッドストーンに報告していることを話す。そして自身が生まれたのがオールドアースであること、戦争の帰結に対するコアの予測はウェブの崩壊であることも。つかの間、爆発音が響いた。次に目と耳にしたのは、CEO補佐官であるリイ・ハントの姿と声であった。

1-7

セヴァーンは再び軍のブリーフィングに出席していた。戦況は想定よりも良くないらしい。FORCE情報部の誤りが露呈した形だ。AI顧問のアルベドは予測を後出しして、モルプルゴたちの怒りを買った。

ブリーフィングの後、セヴァーンとグラッドストーンは会見した。グラッドストーンアウスターとの戦争の本質には人間と機械の対立があることを見抜いている。グラッドストーンはダイアナたちにわざと尋問させたことを認めた。ダイアナ達の肉体は処分され、脳だけが機器に直結されて当局に尋問されるという。グラッドストーンも必死なのだ。グラッドストーンは、人間と機械のどちらが最終的に滅びるのかをセヴァーンに問いかけた。セヴァーンは、遺伝的には人間でありながらコアにも属している。一方で人間的素朴さを持ち合わせず、コアの恐るべき意識も共有していない。人間でも機械でもないセヴァーンにはその問いに対する答えを持ち合わせていなかった。

1-8(セヴァーンの夢)

カッサードがたどり着いた時にはすべて終わっていた。ホイトは聖十字架の力と医療パックのおかげで辛うじて生きていた。とはいえ、出血はひどくいつ死んでもおかしくない状態であった。レイミアとカッサードは、ほかの巡礼者たちと合流すると、領事の宇宙船を呼び寄せることで意見の一致をみる。宇宙船の医療施設ならホイトを蘇生させる見込みがあったからだ。なにより、巡礼者たちはこのすさまじい砂嵐を避けたかった。しかし、宇宙船の発艦許可は下りなかった。グラッドストーンが許可証を上書きしたのだ。カッサードは動体反応を検知して砂嵐の中に消えていく。死に行くホイトを止めることは誰にもできず、ついに医療パックは彼の死を意味する警告音を鳴らした。砂嵐は収まりつつあったが、代わりに雨が降ってきた。一行は朝まで<スフィンクス>に避難することにした。

1-9

次の日の早朝、挨拶のようなちょっとした政治的駆け引きの会話の中から、グラッドストーンが本心から提案してきたのは、ハイペリオンへ行ってみないかということであった。グラッドストーンはセヴァーンが報告する夢の全てを信用するわけではないが、歴史に名を残す詩人の観察眼、その天賦の才能には一目を置いていた。義務ではないと言いつつも、それは半ば強制であった。リイ・ハントとともに、ハイペリオン星系に駐留する旗艦へ転位し、降下艇に移ってハイペリオンへ向かう間、セヴァーンはずっと考えていた。セヴァーンにとってハイペリオンへ向かうことの一抹の不安は、ハイペリオンにはコアのメガスフィアが存在しないということだった。FORCEは独自のネットワークを保持しているため、ハイペリオン星系ではセヴァーンはコアとの接続が断たれることになる。ところが、思いのほかその喪失感は無かった。確かにウェブ内とは違うが、どこか遠くにメガスフィアの存在を感じる。言い換えれば、それはコアがハイペリオンの状況を知り得ることを意味していた。セヴァーンは降下艇の程よい振動の中でまどろんだ。

1-10(セヴァーンの夢)

一行は<スフィンクス>の一室で風と雪をしのいだ。ソルはレイチェルに哺乳パックを与えているうちに眠った。夜半、目を覚ましたのは、突如として轟音が鳴り響いたからだ。その音は、断続的に<スフィンクス>の外から聞こえた。音の正体は、カッサードのライフル、あるいはカッサードが対峙する相手のものだと、一行は想像した。

1-11

ハイペリオンの首都・キーツは夜だった。出迎えたのはハイペリオンの総督であるシオ・レインである。シオたちは、巡礼者たちが六日前に立ち寄った<シセロの店>で朝食をとった。セヴァーンはそこにメリオ・アルンデスがいることに気付いた。アルンデスは、時間の墓標が開きつつあることに気付いた一人であり、調査への情熱とレイチェルへの愛情を未だに失ってはいなかった。今のセヴァーンに出来ることは何もなかったが、出来ることはすると約束した。セヴァーンとリイ・ハントは足早にハイペリオンを去りガバメントハウスへ戻った。

1-12

セヴァーンが戻ったとき、グラッドストーンは長い演説を終えようとしているところだった。開戦してからわずか二日足らずにも関わらず、政府内部ではすでに反戦論が醸成されつつあった。リイ・ハントは、その後の晩餐会と、軍のブリーフィングに参加するようセヴァーンに伝えた。セヴァーンはそれまでの間、ひと眠りでもしようかと思った。

1-13(セヴァーンの夢)

カッサードは攻撃を受けた。それもシュライクが持っていそうな刃によるものではなく、カッサードと同等の軍用兵器によって。カッサードは、相手がモニータだと確信した。カッサードは相手の弾道を解析し、相手が<クリスタル・モノリス>に居るであろうことを突き止める。カッサードは相手の攻撃をかいくぐりつつ、牽制攻撃を与えモノリスへと接近する。カッサードがモノリスに足を踏み入れると、上階に一つのシルエットが待っていた。

1-14

晩餐会おいてセヴァーンが着いた席には、モルプルゴ大将やアルベド顧問官、そして、あのサイリーナスを世に出したタイレナ・ワイングリーン=ファイフがいたが、特にセヴァーンが興味を持ったのは、かつてデュレ神父の友人であった、エドゥアールであった。エドゥアールは自らの教義を「人類が神を知り、神に仕えることを手助けすること」だと語り、アルベドに対してコアも同じ目的を持っているというのは本当ですかと問いかけた。思わずセヴァーンは重ねて問いかけた。コアは究極知性を求めるうえでオールドアースのレプリカを作ったのは本当かと。一瞬、表情を逡巡させるアルベト。そして、フロア全体の沈黙。エドゥアールが機転を利かせて場の空気を戻したが、アルベドグラッドストーンとハントはセヴァーンを見つめたままだった。

1-15

晩餐会の後のブリーフィングでは、戦況のさらなる悪化が明らかになった。軍が説明するところによれば、現状では戦線の維持も難しく、攻勢に出るには少なくともあと二百隻の艦艇が必要とのことだった。これには出席者が騒めいた。FORCEは全戦力をもって六百隻強である。増派を決定すれば、FORCEの三分の二がハイペリオンにくぎ付けとなるからだ。しかし、今度のFORCEのシミュレーションにはコアのお墨付きが付いていた。増派に反対したのは、ウイリアム・アジャンタ・リー中佐だけであった。

続く。

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