弥生研究所

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解説『ハイペリオンの没落』2

第二部です。文庫本でいうところの上巻の後半(pp.257-476)に当たります。第二部ではセヴァーンの夢=ハイペリオンの出来事の描写がほとんどを占めます。これは、セヴァーンがグラッドストーンへの悪態をつきながらがっつり睡眠導入剤を飲んだからで、よりメタ的に見れば、巡礼者たちの物語が、それぞれクライマックスを迎えつつあるからです。また、タウ・ケティ・センターでも物語は大きく急転します。アウスターの大規模侵攻です。

語り部としての視点にも変化があります。第一部では、タウ・ケティ・センターでの出来事はセヴァーンを第一人称としたセヴァーンの視点で描かれ、ハイペリオンでの出来事はセヴァーンの夢という設定でした。つまりセヴァーンが知覚し得ない状況の描写はありません。ところが、第二部ではセヴァーンは寝ているにもかかわらず、寝ている最中のタウ・ケティ・センターの出来事も描写されるようになります。これは、セヴァーンの夢の中の知覚がハイペリオンを越えていることを意味します。

前回の記事はこちら。

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2-16(セヴァーンの夢)

レイミアは目を覚ますと瞬時に覚醒した。あたりに、領事の姿がなかったからだ。<スフィンクス>の外に出ると、既に空は明るくなっており、<クリスタルモノリス>の惨状が明らかになった。領事は外にいた。既にあたりを探索したようで、カッサードの痕跡は何もなかったと領事はいう。つかの間、<スフィンクス>の内部から悲鳴が聞こえた。レイミアと領事が室内に戻ると、サイリーナスがホイトの死体を見ていた。レイミアは絶句した。ホイトの死体は、一晩にして別人になっていたからだ。それは、ポール・デュレ神父だった。そして、デュレ神父は覚醒していた。 デュレ神父にはビクラ族に見られたような知性の劣化は見られず、素早く現状を認識した。一行は、デュレ神父を加えて、昨日と同じように墓標全体を探索したが、結局得られるものはなかった。誰もが長期戦を予想していなかったため、レイミアとサイリーナスは<時観城>へ戻り、食料を補給することになった。

2-17(セヴァーンの夢)

十二時間前。カッサードが<クリスタル・モノリス>の最上階に立った時、そこにいたのは、やはりモニータだった。カッサードはモニータを殺すべくライフルを構える。その時、モニータが言った。「あなたは何者?」 モニータによれば、カッサードにとっての過去は、モニータにとっての未来なのだという。結局二人は再び愛し合っていた。カッサードは傍らにシュライクがいることに気付き身構える。シュライクは瞬時にカッサードの二の腕をつかむと、右手で転位ゲートを作り出した。モニータがそのフィールドに入っていく。カッサードの心は抵抗よりも好奇心が勝り、シュライクと共に転位フィールドをくぐった。

2-18

グラッドストーンは寝付けなかった。こういうときグラッドストーンは散策をする。パケム、マウイ・コヴェナント、ルーサス、バーナード・ワールド、火星、コッズ・グローヴ、ヘヴンズ・ゲイト。それらは巡礼者たちの所縁の惑星だった。そして、最後には月へ。惑星を巡るグラッドストーンは巡礼者たちを回顧しながら、頭脳は思索していた。グラッドストーンは領事の裏切りを当てにしていた。その舞台を用意したのはグラッドストーンだ。グラッドストーンが考えているのはコアとの決別だった。そろそろ戻ろうと考え始めたグラッドストーンのもとに現れたのはリイ・ハントだった。ハントは報告した。ウェブ全体がアウスターの攻撃にさらされていることを。

2-19(セヴァーンの夢)

<時観城>へ戻る途中、レイミアとサイリーナスはもう何度目か分からない喧嘩をした。日中のあまりの暑さに、サイリーナスがレイミアに追いつけなくなったからだ。ついにサイリーナスは途上にある<詩人の都>に行くと言い張り、レイミアと別れる。レイミアは二、三時間で戻ると言いながら振り返りもせずに歩き出す。サイリーナスはその姿を見送ると、廃墟となった<詩人の都>へと歩き出した。

2-20(セヴァーンの夢)

領事、ワイントラウブ、デュレが、残り少ない糧食で昼食を取っているとき、デュレが倒れた。三人は<スフィンクス>の屋内に戻り休憩する。領事は再び宇宙船との通信を試みるが、応答はなかった。夕方、領事はサイリーナスとレイミアが戻ってこないか確認するため<スフィンクス>を出ると、<翡翠碑>の近くに人影を発見した。人影はふらつきながら倒れた。領事がその人影に近づくと、その正体はヘット・マスティーンであった。

2-21(セヴァーンの夢)

サイリーナスはレイミアと別れて、午後をまるまる詩作に費やした。日の入りを迎えてもなおペンは止まらなかった。詩の主題はギリシャ神話である。幾多の戦いを経てサターンとジュピターは講和の席につく。唐突にサイリーナスの頭に想像だにしない発想が滑り込んできた。講和の席に着く二柱の神は第三の脅威に対し恐怖を表明したのである。第三の敵、その相手とは? サイリーナスは、はっと我に返った。気付けば、書いた文字が読めないほど暗闇が深まっていた。 サイリーナスは原稿をリュックにしまい出口を見た。そこには誰かが立っていた。レイミアか……と考えたのは一瞬で、すぐにそれがシュライクであることに気付いた。サイリーナスは命乞いをするも、意に介さないシュライクは近づいてサイリーナスを抱きかかえた。<詩人の都>にサイリーナスの絶叫がひとしきり響き渡ったが、やがて再び静寂が訪れた。<詩人の都>に残っているのはまき散らされた原稿だけであった。

2-22(セヴァーンの夢)

レイミアが<時観城>から下る崖の階段で意識を取り戻したとき、あたりはすっかり夜になっていた。レイミアが<時観城>へ戻ったときにすでに夕暮れを迎えていた。食糧庫で水と糧食を調達したのは良かったが、荷物を抱えて崖を下り始めたのもつかの間、そこで落石に遭い、頭を強かに打って気絶したのであった。疲労困憊であったがレイミアは歩いた。途中、<詩人の都>に立ち寄ったが、サイリーナスの姿はなかった。<スフィンクス>にたどり着いたとき、屋内には誰もいなかった。荷物はそのまま置いてある。しかし、メビウス・キューブがない。レイミアが入り口に戻ったとき、その横にシュライクが立っていた。レイミアは拳銃で応戦したが、シュライクはメスのような指先をレイミアの耳の後ろから突き刺した。

2-23(セヴァーンの夢)

フィールドをくぐった先でカッサードが見たものは、ハイペリオンの戦場だった。そこはまさにいま地上へ降下しようとするアウスターと、それを阻止せんとするFORCE海兵隊の激戦だった。この戦闘は、カッサードたちが谷に着いてから五日後のこと、つまり未来の出来事なのだとモニータは説明した。カッサードはシュライクを倒すためにハイペリオンへ来た。カッサードはシュライクと決闘する資格が自分にあるかモニータへ問うと、モニータはあるだろうと答えた。しかし、今までに勝ったものはなく、死よりも恐ろしい末路を迎えたものもいるという。カッサードは早贄の木に刺されたサイリーナスの姿を思いだした。モニータは再びゲートを出現させた。カッサードはモニータと共にそのゲートをくぐった。

2-24

会議室は一種のショック状態、パニック状態にあった。モルプルゴの説明によれば、ウェブ内の数十の惑星がアウスターの攻撃の危機にさらされているという。先の会議ではウェブ近縁にアウスターの艦隊はいないとのことであったが、驚くべきことにアウスターは航跡の残るホーキング駆動ではなく、亜光速でウェブへと近づいたらしい。それはつまり数十年も前から計画されていたことを意味する。グラッドストーンは速やかに当面の方針と手順を通達すると会議を解散し自室へと戻った。グラッドストーンは滅多にない怒りをぶつけていた。その相手はコアの代表であるアルベド顧問官である。成り行き次第ではコアに対して宣戦を布告することも辞さないと、彼女なりの脅しをかけると、アルベドのホロはふっとかき消えた。

2-25(セヴァーンの夢)

ソル、領事、デュレ神父が、ヘット・マスティーンに近づいたとき、彼の意識は朦朧としていた。ヘット・マスティーンはメビウスキューブが必要だと言い、デュレ神父はスフィンクスへと取りに戻った。デュレ神父は戻ってきたが、ヘット・マスティーンの言葉は半ば意味不明であり、そのまま眠りに落ちた。四人が嵐を避けて第一の岩窟廟に避難したとき、唐突に銃声を聞いた。おそらくレイミアの拳銃だろうと推測した領事とソルはレイミアを探すべく岩窟廟を出た。二人は、スフィンクスまで来たとき、その石段の最上段に横たわるレイミアを見つけた。レイミアは死んではいなかったが意識もなく、頭蓋の神経ソケットからは触手と形容するにふさわしい銀色のケーブルがスフィンクスの入口へと伸びていた。驚くべきことにそのケーブルは温かかった。領事はケーブルを辿ってスフィンクスの奥へと潜ったが、ケーブルはその終端で石の床にじかに潜り込んでいた。その接合部は素手でどうにかできるものではなかった。領事は荷物の中から空飛ぶ絨毯を引っ張り出した。領事はその絨毯を使って助けを呼びに行くことを考えていた。デュレにも相談すべく二人は岩窟廟へと戻った。幸い、傍らにはレイミアが持ってきてくれた食糧が置かれていた。

2-26(セヴァーンの夢)

シュライクの鉤爪が神経ソケットを貫いたとき、レイミアは苦痛を感じなかった。その瞬間、レイミアはデータプレーンの空間を漂っていた。レイミアが戸惑っているとその腕をつかんだのはジョニイだった。レイミアは死んだのだと自覚していたが、ジョニイの言葉によれば、シュレーンリングの中のジョニイと共にその意識がデータスフィアへと解放されたらしい。二人はセヴァーンの意識を夢で共有していた。セヴァーンはコアによって復元されたが、彼がキーツ自身なら我々の敵ではないとジョニイは言う。二人はより多くのことを知るためにメガスフィアへと上昇していった。

2-27(セヴァーンの夢)

カッサードがゲートをくぐり抜けると、そこは荒涼とした大地で、巨大な棘のある木が赤い空に向けてそそり立っていた。串刺しにされた早贄たちは生きていた。その中にサイリーナスの姿を見止めたカッサードは、彼を救うべく木に近づく。木との間には百体を越えるシュライクが立っていた。カッサードはその一体に狙いをつけると、雄たけびを上げて一気に距離を詰めた。

2-28(セヴァーンの夢)

領事は自分だけで助けを呼びに行くことを躊躇っていた。しかし、ソルもデュレもこの場を離れることを嫌がった。領事は詩人の都を越え、時観城を横目に馬勒山脈を越えた。その速さは徒歩で数時間かかる距離を数十分で飛行しえるものだったが、さしもの山越えには六時間かかかった。過酷な環境と疲労から、いつしか領事は眠りに落ちていた。夜半に出発した領事は、絨毯の上で再び夜を迎え、そして朝を迎えた。領事は焦っていた、レイチェルに残された時間はあとどれくらいだったろうかと。途端に絨毯は死んだように機能を停止し、領事はフーリー側の水面へ落下していった。

2-29(セヴァーンの夢)

領事が出発した後、残されたソルとデュレはひたすら待つしか出来なかった。二人は奇しくもシュライクによって信仰を失った者と、信仰を強固にしたものであった。しかし、間もなくヘット・マスティーンがうなされながら死んでいくと、二人は彼のために墓を掘った。午後、居ても立っても居られなくなったデュレは、ソルにひとこと言ってから谷の奥へと散歩しはじめた。デュレは日陰を歩いたが、午後の谷は猛暑であった。デュレが第三の岩窟廟の前を通ったとき、その奥に光がともっていることに気付いた。デュレの記憶が正しければ昨日避難したのは第一の岩窟廟であったはずで、ここに光がともっていることはありえない。デュレは理性ではソルのもとへ戻るべきだと思ったが、しかし第三の岩窟廟へと足を踏み入れた。ソルはふと目を覚ました時、夕暮れが迫っていた。日没までにデュレを探すべく、ソルは急ぎ足で谷の奥へと進む。ソルは翡翠碑、オベリスク、クリスタル・モノリスを通り過ぎて、三つの岩窟廟も除いたが、どこにもデュレはいなかった。ソルは恐怖を感じてスフィンクスに戻ったが、そこには横たわっていたはずのレイミアの姿が無くなっていた。巡礼者がみんないなくなってしまったことにソルは毒づいた。そしてあと一日足らずで、本当に一人になってしまう現実に気付き、ソルは絶望感に打たれ、眠りに落ちた。

2-30(セヴァーンの夢)

ソルは夢を見ていた。今までになんども見た夢だ。しかし、今回は少し違った、その声は大音声ではなく、ささやくような懇願の声だった。ソルは唐突に腕を掴まれてぎょっとした。それは八歳くらいのレイチェルだった。レイチェルは「イエスと言って、パパ」と言った。ソルが目を覚ますとすでに太陽は高く昇っていた。朝を越えてずいぶんと眠ったらしい。昼になっても午後になっても、ついに領事の宇宙船は現れなかった。日が落ちてついにレイチェルが誕生を迎えようとするとき、谷中が鳴動し始めた。スフィンクスの入り口が明滅し、谷の奥には早贄の木が現出し始めた。スフィンクスの入り口からシュライクが近づいてくる。しかし、ソルが気にしているのレイチェルだった。ソルは悟った。全てが塵となる中で最後まで残るものは愛なのだと。そして愛とは信じることなのだと。ソルはレイチェルをシュライクに差し出した。ソルの周りで時間の墓標は一斉に開こうとしていた。

ハイペリオンの没落(上)

ハイペリオンの没落(上)