弥生研究所

人は誰しもが生きることの専門家である

【Factorio】Kovarex濃縮プロセス【回路ネットワーク】

回路ネットワーク 難易度
実践編

Factorio では原子力発電まで手を出さなくても、ロケットを打ち上げてクリアすることが可能です。ただし、工場を大規模化していくと、間違いなく誰もが行き着くのが原子力発電です。

原子力発電を運用すると、蒸気機関に比べて、面積占有的にも、材料消費的にも、高効率であることが体感的に分かります。ただし、これは、燃料棒の生産が安定して初めて言えることです。燃料棒の熱量は1本あたり 8GJ で、石炭1個が 4MJ であることを考えると、その効率の高さが伺えます。1個のウラン235から10本の燃料棒が作れます。原子力発電のボトルネックウラン235の生産にあります。

10個のウラン鉱石は遠心分離機によって、0.7%の確率で1個のウラン235が、99.3%の確率で1個のウラン238が生産されます。10000個のウラン鉱石からウラン235がとれる見込みの個数は、たったの7個です。しかも、確率なので、10000個のウラン鉱石を消費して、1000個すべてがウラン238の可能性もあります。

したがって、遠心分離機でウラン鉱石を精錬するだけでは、原子力発電は滞ります。そこで用意されているのが、Kovarex 濃縮プロセスです。

消費 数(個) 生産 数(個)
ウラン235 40 ウラン235 41
ウラン238 5 ウラン238 2

これは、簡単に説明するならば、3個のウラン238から1個のウラン235を生産するものです。遠心分離機が10個のウラン鉱石から0.7%の確率で1個のウラン235を生産するのと比べると、格段の差があります。ここまで来てようやく、安定した燃料棒を供給するだけのウラン235を用意することができます。

ただし、Kovarex 濃縮プロセスには、ほかの設備にはない一つの特徴があります。それは、材料として入れたアイテムと同じアイテムが、数量だけ変えて製品として出てくるという点です。したがって、ラインを組もうとすると、今までとは違う工夫が必要になります。

今回は、原子力発電に必須ともいえる Kovarex 濃縮プロセスを効率化するための回路ネットワークを紹介します。

動作確認

まず、最初に動作から確認しましょう

f:id:yayoi-tech:20200128182852g:plain

ウラン235の余剰の1個は下流へと流れ、ウラン238は必要数だけ搬入しています。

レイアウトと仕様

f:id:yayoi-tech:20200128180837j:plain
レイアウト(クリックすると拡大します)

解説

Kovarex 濃縮プロセスの最大の問題は、吐き出されたウラン235、41個と、ウラン238、2個のうち、余剰分のウラン235、1個を除いた残りを、再び材料として再投入したい、という点です。

入力と出力のアイテムが同じため、搬入ラインと搬出ラインを安易につなげると、ラインに材料(ウラン238)が充満したときに、搬出が行われず稼働が停止します。そこで、今回は、ウラン238の搬出ラインと搬入ラインを分けています。

1:フィルターインサータ(ウラン235搬出用)

生産したウラン235、41個を搬出します。搬入用の2番の高速インサータとスタックサイズを合わせています。

2:高速インサータ(ウラン235搬入用)

ウラン235を搬入します。スタックサイズを2にすることで、ラインの上流から流れてきた41個のウラン235のうち、必要な40個を遠心分離機に搬入し、余剰の1個を下流に流します。搬出用の1番のフィルターインサータと速度を合わせるため、高速インサータにしています。

3:フィルターインサータ(ウラン238搬出用)

生産した2個のウラン238を搬出します。搬出した2個のウラン238は、再搬入用のインサータによって再び遠心分離機に搬入されます。4番のインサータと回路ネットワークで接続しており、3番のインサータが動いたとき、4番のインサータが動きます。これにより、遠心分離機には常にピッタリ5個のウラン238を搬入することになります。

4:ロングアームインサータ(ウラン238搬入用)

Kovarex では、ウラン238を5個搬入して、3個消費し、2個搬出します。消費した3個分のウラン238を補充するのがこのインサータの役割です。3番のインサータと回路ネットワークで接続しており、3番のインサータの稼働に合わせて稼働します。搬出1回につき、搬入1回しか行わないので、スタックサイズが3になっていることが重要です。研究の進捗具合でスタックボーナスを得ていない場合は、スタックインサータなどで代用する必要があります。

5:高速インサータ(ウラン238"再"搬入用)

レイアウト画像には番号を振っていませんが、右側中央の高速インサータです。このインサータは回路には繋がず、スタックサイズも変更しない、バニラの状態です。単純に搬出された2個のウラン238を再び遠心分離機に搬入します。

課題

動かしてみると、ケーブル一本で構築できる割には期待通りに動きます。このレイアウトの良いところは、遠心分離機をラインに沿って拡張できるので、生産量を調整しやすいところです。ちょっとした原子力発電くらいなら、Kovarex は一台でも十分ですが、発電規模に応じて増設していくことができます。

ただし、課題が全くないわけでもありません。

  • 初期状態から動かすには、手動でウラン235ウラン238を入れる必要がある(ラインに材料を流せば全自動で稼働するわけではない)
  • 遠心分離器内に80個のウラン235を保持してしまう(40個分余剰を持ってしまう)

みなさんはどのように Kovarex 濃縮を行っていますか?

Factorio

f:id:yayoi-tech:20190917171944p:plain

ゴッホ展に行ってきた

年末に、珍しく上野に足をのばして、ゴッホ展に行ってきました。普段、美術館はあまり行かないので、非常に良い刺激を受けることができました。日常では得られない感性の刺激を得られるのが、美術館の良いところです。

go-go-gogh.jp

ゴッホ展を選んだ理由は特にありませんでしたが、母がゴッホ好きということで、これまた珍しく母と一緒にゴッホ展に行ってきたというわけです。それに、美術に詳しくない私でもゴッホの作品はいくつか知っているくらい有名なので、美術知識のすくない初心者でも比較的とっつきやすいのではと思います。おりしも、ゴッホを主人公に置いた映画も公開されていました。私は見逃しましたが……。

gaga.ne.jp

当日は、ぼんやりした天気で、メリハリの効いたゴッホの絵とは対照的でした。

f:id:yayoi-tech:20191224181703j:plain

私はゴッホの絵、そのものが特別好きというわけではなく、ゴッホ人間性や人生に興味を大きくそそられるものがあります。いままで、ゴッホという人の名と、その人が残したものを知りながらも、その人自身の人となりや生き方について知ることはありませんでした。ゴッホ展は、ゴッホの絵画を飾るだけの場ではありません。絵画には解説が付けられ、それは時に彼自身や彼と親交のあった人物の手紙であったりします。それらを読むうちに、私は、絵画というモノからゴッホというヒトに、自然とフォーカスが移りました。

27歳で画家として生きる決意をする

意外にも、ゴッホが画家を目指したのは27歳という年齢になってからでした。とはいえ、それまでゴッホが絵画の世界から無縁だったかというとそうではありません。父は牧師でしたが、五人いる伯叔父のうち三人が画商であり、本人も画廊に務めた経験もあって、絵画が身近にある環境にありました。当初、ゴッホは聖職者を目指して、神学校を受験します。もともと、ゴッホの生家は牧師の家であり、特に祖父のフィンセントは牧師として高名で、フィンセント・ファン・ゴッホの名は祖父からとられたものでした。

ゴッホ自身には勤勉、勤労という印象はあまりありません。勤めていた画廊をクビになった経験もあります。当初目指していた大学の神学部への進学も、受験勉強を途中で放棄し、聖職者としての道に挫折します。そして、画家として生きる決意をしたのです。

晩年は精神を患う

ゴッホは若いころから扱いづらく、気難しい性格だったようです。幼少期には癲癇の持病があったとされていますが、その後、引き続いた発作の原因についてはいくつかの説があるようです。ただ、彼の性格が多くの人間関係で軋轢をおこしたことは事実で、彼自身の性格が彼の精神・肉体両面に負荷をかけたであろうことは推測できます。

ゴッホゴッホの性格であったからこそ、後に評価を受ける絵を生み出したとも言えます。彼が見る世界が、私たちが見る世界とはずれているほど、私たちにとっては魅力となります。特に、サン=レミの療養時代の絵は、常人には見られないような世界を見ていた、あるいは見ようとしていたかのような印象を率直に受けます。

37歳という若さで夭折

7月27日の日曜日の夕方、ゴッホはオーヴェルの旅館に傷を負って帰宅します。その傷は、銃創でした。手当を受けたものの、弟のテオに看取られながら、二日後の7月29日に亡くなりました。ゴッホは、オーヴェルの麦畑付近で銃による自殺を図ったというのが定説ですが、真相は定かではなく他殺という説もあります。

弟のテオは、生活資金を兄に仕送りするパトロンであり、ゴッホにとって最大の理解者でもありました。そのテオも、兄の死後まもなく、病気を発症し、翌年1月25日に亡くなります。兄の死のわずか半年後のことでした。

名前 生年 没年
フィンセント 1853年3月30日 1890年7月29日
テオドルス 1857年5月1日 1891年1月25日

生前は評価されなかったが……

ゴッホは、その生前に作品が世間から評価されることはありませんでした。ゴッホの作品の価格が急騰するのは1900年(つまり死後10年後)からです。このとき、もしゴッホが生きていれば47歳ですから、早死さえしなければ、生きている間に評価を得ることが十分にできたことでしょう。また、27歳から絵画の世界に入ったにもかかわらず、37歳に至るまでのたった10年の画業の中で、多くの作品がここまで評価されているという点は、ゴッホという人物を特異な存在にしています。

f:id:yayoi-tech:20191224181822j:plain
図録、装丁がまた良い

例によって、記念に図録だけを買い、久しぶりの上野で昼食をとって帰りました。こういう文化的な一日をときどき意図的に作ると、とても満足度が高いです。

東京展は1月13日まで、兵庫展は3月29日までとなります。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。

【FEH】ニノ育成計画

育成の背景と目的

主に、フレンドダブルと、縛鎖の闘技場で、アタッカーとしての役割を担うのが目的です。特に、フレンドダブルはボーナスを稼ぐために、受けよりも攻めを意識したプレイが必要になります。受けてしまうと、ボーナス対象でない相手を倒してしまうことがあるからです。

キャラの選定理由

  • 低レアであること(☆5限定や、聖杯配布ではないこと)
  • アタッカーの素質を持っていること

まず、歩行、緑魔で低レアに絞ると、ニノ、セネリオ、ボーイの3名に絞られます。このうち、攻撃、速さ共にトップなのがニノです。ニノは、専用武器の「アイリスの書」がブレード効果と攻撃の波・偶数の効果を持っており、純粋なアタッカーとして設計されています。一般にブレードはバフによる支援を必要としますが、ニノの場合は自前で攻撃の波・偶数を持っているので、偶数ターンであれば、自己バフだけで攻撃+12になります。騎馬ブレードなどの攻撃+30と比べれば上げ幅としては控えめですが、自己完結してお手軽に攻撃+12を得られるのは十分な強みといえます。

セネリオはステータスだけ見れば、ニノに次ぐアタッカーの素質を持ちますが、専用武器の「深き印の風」は攻撃の封印の効果をもっており、どちらかといえば支援向きです。ボーイに至っては守備に特化したステータスを持ち、専用武器の「金石の書」は竜以外の近距離反撃を持つため、アタッカーというよりは特殊な受けキャラです。

ニノは無課金でも容易に限界突破が可能で、強く、ライバルも少ないので、私が説明するまでもなく人気キャラです。

ステータス

HP 攻撃 速さ 守備 魔防 総合
☆5 Lv.40 基準値 33 33 36 19 26△ 147

△:得意

ニノの個体値は速さ↑を選んでいます。ニノのビルドは一般に速さ↑を選択されることが多いようです。ブレードで強化されることが前提の攻撃を伸ばすより、追撃する相手を増やし、追撃される相手を減らすために、速さを伸ばしたほうが安定するようです。攻撃↑か速さ↑かはプレイスタイルや目的に応じて決めたほうが良いでしょう。いずれにしても、アタッカーとしての役割がはっきりしているニノは、あえて守備↑、魔防↑を選ぶ理由はありません。

スキル構成

f:id:yayoi-tech:20191210174127p:plain
10凸しました

巷では波乗りニノと呼ばれるビルドです。

  • アイリスの書(特殊錬成)
  • 入れ替え
  • 凶星
  • 獅子奮迅3
  • 攻め立て3
  • 攻撃の波・奇数3

凶星はブレードでは定番のスキルです。ブレードは素のステータスよりも、戦闘時の攻撃が大幅に上がるのが特徴です。凶星はダメージを1.5倍にするため、戦闘時の攻撃が大幅に上がるブレードや、ダメージそのものに補正がかかる相性激化に向いています。

獅子奮迅と攻め立ては、アタッカーには定番の必勝パターンです。アタッカーにとってなによりも脅威なのは、相手の反撃です。相手が魔法ならまだ耐えられるものですが、遠距離反撃のついた物理属性だと、アタッカーなのにもかかわらずこちらから手を出せない状態になりかねません。攻め立てによって、きっちり追撃で相手を倒します。速さが高いニノとも好相性です。

攻撃の波・奇数は、アイリスの書の攻撃の波・偶数と相互にバフをかけるためのもので、これにより偶数ターンだけでなく、毎ターン攻撃+12を得ることができます。指揮などのバフがかからなくても、ニノは常に攻撃+12になります。攻撃の波は比較的貴重なスキルです。今回はスキル継承のためイシュタルが素材になりました。イシュタルは☆5限定ですが、使わずに宝の持ち腐れをしているくらいなら、継承して有効利用したほうが良いというものです。

評価

とても使いやすいです。緑の魔法キャラがいない人にはぜひおすすめしたいところです。同じ緑の魔法キャラとして騎馬のセシリアもいますが、セシリアは騎馬パでバフを受けることが前提になります。単独で一定の強化を得られるニノは、騎馬ブレードとして運用するセシリアよりも使いやすい印象を受けました。

良い点

特に何も考えなくても、攻撃+12のバフが掛かっているのは、使っていてとても楽です。バフ役の事を介護役と表現することもありますが、ニノは自立して運用できるので介護役を必要としません。立ち回りがとても楽です。確かに、フルバフの+30と比べれば攻撃+12は物足りなさがあるかもしれませんが、攻撃+12でもほとんどの場合で十分です。とにかく頭を使わなくても強いというのがニノの良いところです。

悪い点

使ってみたところ特に悪い点はありませんでした。ただし、受け性能は無いので、前線にせり出したニノを引き戻し等でどう回収するかは考えて運用しなければなりません。とはいえ魔法使いはほとんどそういう運用になるので、ニノ固有の問題点ではありません。受け性能は期待できませんが、魔防は基準値で26とそれなりにあるので、適当なラインハルトくらいなら余裕で受けられます。

今後の育成方針

すでに10凸も完了してますし、攻撃の波といった高級スキルも継承しているので、育成は十分かなと思います。 あえて言えば、獅子奮迅4にする余地はありますが、そこまでしなくても強さは発揮してくれています。

歩行魔法を10凸で三色そろえることを目指します。

【SCSS】Mixin と Extend の違いと使い分け

SCSS ではソースコードを共通化する機能として、mixin(include) と、extend が用意されています。 比較的単純な共通化であれば、mixin も extend も同じ役割を担うことができるため、機能的な違いだけで mixin と extend を使い分けることが難しい場合があります。 そこで、mixin と extend のどちらでも実装できる状況で、どちらを選択すべきなのかをまとめました。

結論

  • コードを共通化するのが目的なら、まず mixin を検討する
  • グループ化したいときのみ、extend を検討する

機能的な違い

さっくりと、基本的な機能の違いを確認します。

Mixin

  • 引数を定義できる(引数なしも定義できる)
  • Mixin の定義自体は出力されない
SCSS(変換前)
@mixin bold {
  font-weight: bold;
}

.text-black {
  @include bold;
  color: black;
  background-color: white;
}

.text-white {
  @include bold;
  color: white;
  background-color: black;
}
CSS(変換後)
.text-black {
  font-weight: bold;
  color: black;
  background-color: white;
}

.text-white {
  font-weight: bold;
  color: white;
  background-color: black;
}

@include bold を記述した箇所が、そっくりそのまま @mixin bold のスタイルに置き換わっています。 @mixin bold のスタイルそのものは、出力されません。 Mixin は、プログラミング言語のメソッドや関数とほぼ同じイメージで使えます。

Extend

  • 既存のスタイルを継承する
  • 継承元のスタイルの定義を出力できる(出力しない方法もある)
  • 継承先のスタイルはグループ化される
SCSS(変換前)
.bold {
  font-weight: bold;
}

.text-black {
  @extend .bold;
  color: black;
  background-color: white;
}

.text-white {
  @extend .bold;
  color: white;
  background-color: black;
}
CSS(変換後)
.bold, .text-white, .text-black {
  font-weight: bold;
}

.text-black {
  color: black;
  background-color: white;
}

.text-white {
  color: white;
  background-color: black;
}

extend の最大の特徴は、継承元のスタイルが継承先のセレクタでグループ化されることです。

結論の補足

上記の例では、mixin でも extend でも同じ結果になります。 実際のところ、引数を使わないのであれば、content などの機能を使わない限り、mixin で書けることは extend でもかけてしまいます。

先にも述べたように、extend の特徴はセレクタがグループ化されることです。 したがって、変換前のソースコードにしか興味を持たないのであれば、mixin と extend はどちらを使っても差異はありません。 しかし、現実にはコンパイルした CSS をブラウザの開発者ツールなどで解析することがあります。 このような時に、出力されている CSSセレクタがどのようにグループ化されているかは解析のしやすさに影響します。 extend を雑に使うと、意味的に全く関連性のないセレクタ同士がグルーピングされることになります。

extend は、セレクタをグループ化することに明確な意図があるときに、使うと良いでしょう。

解説『ハイペリオン』巡礼の道のり

長々と『ハイペリオン』の内容をまとめてきましたが、これで最後です。 巡礼者たちが自らの物語を語りながら、<時間の墓標>を目指す行程をまとめました。

一日目

  • 聖樹船<イグドラシル>で巡礼者たちが低温睡眠から目覚める
  • イグドラシル>船内で巡礼者たちが食事をとる
  • 司祭の物語
  • 夕刻、ハイペリオンキーツ市の宇宙港へ降下
  • シオ総督と領事の再会
  • <シセロの店>で食事をとる。
  • A・ベティックが巡礼一行を艀(ベナレス)に案内する
  • フーリー河の水路を通り、シュライク大聖堂跡で、ヘット・マスティーンと合流する

yayoi-tech.hatenablog.com

二日目

  • 朝、ベナレスがカーラ閘門を通過
  • ベナレス船上で朝食をとる
  • 兵士の物語
  • 日没のおよそ一時間前、ベナレスが<水精郷>に到着
  • マンタを休息させてから<水精郷>を出発
  • ベナレス船上で夕食をとる
  • 詩人の物語

yayoi-tech.hatenablog.com

yayoi-tech.hatenablog.com

三日目

  • 正午、ベナレスが<叢縁郷>に到着
  • 風莢船が到着すまで待機する
  • 日没、A・ベティックたちと別れる。まもなく、風莢船が到着
  • 風莢船にて夕食をとる
  • 学者の物語
  • アウスターの攻撃が始まり、<イグドラシル>が炎上する

yayoi-tech.hatenablog.com

四日目

  • 朝、ヘット・マスティーンの失踪が発覚する
  • 午後の半ば、風莢船が<巡礼の休息所>に到着
  • <馬勒山脈>を越えるため、ゴンドラに乗り換える
  • ゴンドラ内で夕食をとる
  • 探偵の物語

yayoi-tech.hatenablog.com

五日目

  • ゴンドラが<時観城>に到着
  • <時観城>にて夕食をとる
  • ヘット・マスティーンらしき人物が墓標に向かって歩いているのを目撃する
  • 領事の物語

yayoi-tech.hatenablog.com

六日目

  • 夜明け前、<時観城>を出発
  • 一行は徒歩で<時間の墓標>を目指す
  • ハイペリオンの没落』へ

解説

巡礼一行にとっては目まぐるしい六日間だったと言えるでしょう。六日目以降は、物語は『ハイペリオン』から『ハイペリオンの没落』に移り、巡礼者たちはみな、環境的にも心理的にも極限状態へと向かっていきます。

それにしても、時間の墓標に至るまでの道のりは、旅の記録、紀行としての側面もあって十分に魅力があります。艀船でフーリー河を遡上するときのベナレスからの景色、風莢船からの眺望、ゴンドラから見た雲上の絶景。著者のダン・シモンズハイペリオンの美しい眺めを描くことに余念がありません。この巡礼者たちの旅の過程が、商業的なツアーとして再現されたら、きっと盛況なことに間違いないでしょう。もっとも、巡礼の目的地は時間の墓標である以上、その旅はいつどこでシュライクに殺されようとも分からない危険なものです。巡礼の過程で見られる美しさは、巡礼者だけが見られる特権かもしれません。あるいは、強い意志によって巡礼をするその精神状態が、美しさをより鮮やかにしているとも言えます。

参考

ハイペリオン 年表 時間表 時の墓標 巡礼

感想

今回、『ハイペリオン』のあらすじや解説をまとめるに当たって、改めて思ったことは、ハイペリオンシリーズはやはり面白いということです。すでに何度読んだか分からない小説を、再び精読できたのは、その面白さの証拠だと思います。何度も読むことによって、その面白さがじわじわと分かる場合もあります。六つの物語のうち、司祭、兵士、学者、探偵の物語は率直に分かりやすい物語なのに対して、詩人と領事の物語は一見分かりづらく、何度も読むうちにじわじわとくる典型です。

それにしても長い。四部作全体で見れば、物語はまだ四分の一に過ぎないのです。続く『ハイペリオンの没落』についても、いつか何かしらの文章を書きます。

それまで、アデュー。いや、レイター・アリゲーター

追記:そういえば、アデューというのはフランス語で「さようなら」の意味ではありますが、日本語の「さようなら」よりも重みがあり、「永遠の別れ」に近い、長い決別を意味するそうです。その原義は「神のもとへ」だとか。物語上でアデューを使うのはシリだったと思いますが、言葉の意味をより正確に知ると、行間の心理描写が際立ちますね。

解説『ハイペリオン』領事の物語

ハイペリオンの六つの物語のうち、最後の物語である、領事の物語について紹介、解説します。領事の物語は、一番読みにくい物語かもしれません。それでいて、最後の物語にふさわしい伏線回収の要素を多く持っています。といっても、物語は『ハイペリオン』から『ハイペリオンの没落』へ移っていくので、全体の物語としては、まだ半分です。

前回の物語はこちら。

yayoi-tech.hatenablog.com

解説(はじめに)

領事の物語は少し難解なので、解説から入ります。まず、登場人物から整理します。マーリン・アスピックは連邦の若きシップマンで、マウイ・コヴェナントに転位ゲートを建設する事業に従事していました。シリはマウイ・コヴェナントの先住民の少女で、初期の播種船でマウイ・コヴェナントにたどり着いた開拓民の末裔です。二人には、アーロンとドネルという息子がおり、領事はドネルの息子、つまりマーリンとシリの孫にあたります。

シリとマーリンが7度にわたって逢瀬を重ねた記録が、領事によって語られるのですが、その時系列がばらばらで断続的なので、領事の物語は一見してその内容を把握しづらい面があります。また、マーリンにとっては5年間の物語でありながら、シリにとっては65年間の物語であることが、非現実的な飲み込みづらさを生んでいます。

マーリンは超光速でマウイ・コヴェナントと連邦を往復しているため、その往復期間はマーリンにとって9か月、シリにとって11年になります。マーリンが一年弱の航行を終えたとき、シリは11歳も歳をとっているのです。その二人に許された逢瀬の時間はたったの7回。しかも最後の7回目には既にシリは他界していました。二人がともに過ごした期間は一年にも満たないわずかな時間でしたが、二人は愛し合い、子供も設けました。時空の隔たりがあるからこそ、シリとマーリンの最初の出会いは現地で伝説となりました。そんな奇蹟的なロマンスが、領事の物語の根底にあります。そして、彼らとマウイ・コヴェナントが辿った歴史が、領事の行動原理を形成しています。

時系列を整理すると次のようになります。

マーリン シリ アーロン ドネル 領事 出来事 主なページ(文庫本)
19歳 15歳 マイクの死。その事件が後に伝説になる。 P352~断続的に
20歳 26歳 0歳 シリがアーロンを身ごもる。多島海のイルカの描写。 P373
21歳 37歳 10歳 0歳 シリがドネルを身ごもる。 P361
21歳 48歳 21歳 10歳 アーロンが独立主義者として惑星警察に抵抗し殺害される P414
22歳 59歳 21歳 年齢差のある官能の描写。 P355
23歳 70歳 32歳 転位ゲート開通後の会話。 P395
24歳 43歳 9歳 シリは既に死亡。転位ゲートの開通と崩壊。シリの反乱の勃発。 P346~断続的に

※年齢は目安です。

シリの物語に切なさを感じるのは、実はごく身近にある出来事に似ているからです。例えば、70歳の母と35歳の息子という関係性を設定してみましょう。シリとマーリンのように航時差で隔てられてはいないとはいえ、一年に一度会うような間柄であれば、似たようなことが起こります。老齢の母の一年と、まだまだ青年と言ってもよい息子の一年には、かなりの違いがあります。個人差にもよりますが、正月やお盆に帰省して、半年ぶりに会った父と母が老け込んだなと思った経験を持つ人は多いと思います。この切なさは、若い人にはきっと分かりません。事実、私が『ハイペリオン』を初めて読んだ大学生の時、シリとマーリンの物語の切なさは頭では理解できても、心で感じることは出来ませんでした。しかし、歳を重ねてから読んでみるとこれはいけない。涙が出てくるのです。思えば、シリとマーリンは初めは恋人関係でありますが、シリの加齢とともに母と子の親子関係としても捉えることができるような気がします。

領事の物語:思い出のシリ(あらすじ)

巡礼者である領事は、古いコムログを取り出して、その記録を語りだした。その内容は、今ではシリの反乱と呼ばれる(そして、無残にも失敗に終わった)マウイ・コヴェナントの独立戦争の、前日譚ともいうべきものであった。

シリとマーリンが出会ったのは、シリの反乱が勃発する65年前のことだ。もっとも、マーリンにとっては、5年前の出来事でしかないのだが。転位ゲート開設の乗組員として、連邦とマウイ・コヴェナントを往復するマーリンには、シリとの逢瀬は時間的にあまりにも限られていた。シリとマーリンを隔てた航時差が生み出す現実は残酷で切ないものだった。

シリは政治家として立身した。彼女のイデオロギーは一貫して独立主義者に与するものではなかった。しかし、後にシリの反乱と呼ばれるように、独立運動の精神的主柱となった背景には、シリとマーリンの息子であるアーロンが独立主義者に紛れて殺害されたことが大きい。そして、マウイ・コヴェナントが転位ゲートで連邦と繋がれば、マウイ・コヴェナントは連邦の政治と経済の食い物にされ、いままでのマウイ・コヴェナントではいられないことも。最初の転位ゲートが開通したとき、シリはすでに他界していたが、計画されていた反乱は実行された。転位ゲートは開通と同時に破壊され、マウイ・コヴェナントは一瞬の後に再び11年の時空によって隔絶された。

連邦の FORCE 艦隊が現れるまでの5年の間に、反乱軍は艦隊を急造したが、それらは FORCE によってあっけなく蹴散らされた。マウイ・コヴェナントはやがて停戦し、そして正式に連邦に加盟した。マーリンは多島海の戦いで戦死したとされる。シリの一族、つまり領事の一族は、その多くが反乱に殉じた。ただ、シリの息子であり領事の父であるドネルは、連邦の上院議員となり、マウイ・コヴェナントの初代惑星知事となった。領事はそのもとで外交官としてのキャリアを歩み始める。

マウイ・コヴェナントがそうであったように、連邦は開拓星の、先住民、先住文化、先住性物を尊重しなかった。連邦がかつて知的生物に遭遇しなかったのは偶然ではない。開拓星が転位ゲートによって連邦と繋がる前に、知的と評価される種は駆逐されてしまうからだ。領事は外交官として開拓星に赴任し、連邦の暗部で手を汚し続けてきた。ファール、ガーデン、ヘブロンと転任を続けるうちに、ついに領事は精神を病んだ。

全く知られていないことだが、<テクノコア>は実戦部隊を持ちアウスターを執拗に攻撃していた。そして、アウスターと FORCE 双方の実力を試すために、ブレシア人を焚きつけて、アウスターを攻撃させた。かのブレシアの戦いは連邦による執拗な挑発に対するアウスターの報復であり、始まるべくして始まったのである。驚くべきことに、この計画は<テクノコア>だけでなく、連邦の上院でさえも加担していたという。結果として、アウスターは大挙してブレシアになだれ込み、<テクノコア>と連邦は目的を果たした。<テクノコア>は双方の実力を分析するに足るデータを得、連邦は厄介な自治政府が壊滅したブレシアで漁夫の利を得ることができた。当時、ブレシアに赴任していた領事は、これにより妻グレシャと息子アーロンを失った。

ブレシアの戦役によって昇進した領事は、アウスターとの交渉役に任じられた。領事に直接話をしたのがグラッドストーンだった。その要点は、アウスターを挑発し、連邦を攻撃させることにあった。対象はハイペリオンだ。ハイペリオンアウスターに攻撃されれば、連邦はハイペリオンを強制的に併合せざるを得ない。<時間の墓標>は未来から遡ってきた存在ゆえに、誰に利するものか分からない。<テクノコア>はそのため、頑なにハイペリオンの併合に反対してきた。ハイペリオンを併合すれば、<テクノコア>の穏健派が勢力を拡大させることは確実とみられた。

自ら進んでその任についた領事は、個人用の宇宙船が与えられ、外宇宙を放浪し、ついにアウスターと接触を持つに至った。アウスターは<ウェブ>の人間がこの千年間に成し得なかったことを成し遂げていた。アウスターの船団での生活を領事はそう表現する。領事はアウスターに全てを打ち明けた。そして、アウスターもいろいろな情報を領事に与えた。そのひとつは<大いなる過ち>についてであった。<大いなる過ち>は決して過ちなどではなかった。オールドアースの破壊は、人類を宇宙へ旅立たせるために、<テクノコア>と連邦が手を組み、意図的になされたものであった。<テクノコア>の管理下にないアウスターだからこそ、連邦内において<テクノコア>によって巧みに隠蔽されている事実を良く知っていた。

<ウェブ>へと戻った領事は、グラッドストーンに結果を報告した。罠だと知りながらアウスターはハイペリオンを攻撃すること。そして、戦いが始まったとき、二重スパイとしてアウスターに通じるため、ハイペリオンの領事になってほしがっていることを。しかし、アウスターが<時間の墓標>を開く技術を持っていることだけは伏せた。領事はハイペリオンに派遣された。ほどなくして、アウスターのエージェントから連絡が入った。彼らは<時間の墓標>を調査するためにハイペリオンまで来た。アウスターは転位ゲートの技術を持っていなかった。というよりも、転位ゲートの技術は<テクノコア>のみが保守、管理する技術であり、連邦の技術者ですらその原理は明らかでなかった。故に、アウスターはその技術に強く興味を持ったが、結果としてその原理を解明することは出来なかった。しかし、その失敗に至る過程を経て、彼らの時空に対する理解は大きく進歩した。アウスターもまた<時間の墓標>が未来から遡っていることを知っており、遺跡を取り巻く抗エントロピー場を破壊することで、時間の遡行が止まること、つまり<時間の墓標>が開くことを仮定していた。彼らはその仮定を、実験によって確認するために来たのだ。

領事はエージェントを<時間の墓標>へと案内した。アウスターのエージェントは、抗エントロピー場を崩壊させる装置(開放装置)を持っていた、しかし、今はまだ使うときではないとエージェントは言った。アウスターの政治的上層部は、まだハイペリオンへの侵攻を決定していなかったからだ。装置は、侵攻が確定的になって初めて起動される。装置をいったん作動させたら、場の崩壊は止められない。領事は、<時間の墓標>が開いたら戦争に勝利するしか道がないことを念を押して確認したのち、エージェントを射殺した。そして、開放装置を起動した。一見して遺跡に変化はない。一年以上をかけて、場はゆっくりと崩壊していくのである。領事はまずアウスターに連絡をいれた。事故が起きて、エージェントはシュライクに殺害され、開放装置が作動してしまったと。そして、グラッドストーンに連絡を入れ、アウスターの侵攻がほぼ確実であることを告げた。しかし、開放装置のことだけは伝えなかった。

グラッドストーンは領事の労をねぎらい<ウェブ>へ戻そうと言ったが、領事は断ってハイペリオンに近い辺境惑星へ宇宙船を向けた。

解説(続き)

領事の物語は、中に二つの物語を持っています。ひとつは、シリとマーリンの物語である前半部分で、もうひとつは、領事自身の独白である後半部分です。

前半は、学者の物語とはまた別の側面で、胸が締め付けられる物語です。学者の物語はレイチェルが若返っていくという悲劇の物語でしたが、今度はシリが年老いていくという逆の悲劇の物語でもあります。一方で後半は、六つの物語の最後を飾るにふさわしい新事実が明らかになります。前半と、後半のギャップが激しいので、ここもまた理解しづらい理由かもしれません。

プロローグにおいて、グラッドストーンは巡礼者の中にアウスターの内通者がいることを領事に告げました。領事こそがその内通者です。グラッドストーンは領事を連邦のスパイとしてアウスターに送り込んだ張本人ですから、アウスターのスパイがいることを領事に告げるのはどことなく不自然に感じます。グラッドストーンから見れば、アウスターのスパイがいるとしたら、領事はまず最初に疑われる人物だからです。プロローグにおいてグラッドストーンがスパイのことに言及したのには、注意を促すためというよりは、どことなく言動の怪しい領事の心中を察知して、釘を刺したと見るべきかもしれません。

一見して、領事の行動は理解しがたいものがあります。それを理解するために必要なのが、前半のシリとマーリンの物語です。連邦が各惑星を開拓していく構図は、かつてヨーロッパの列強がアメリカ大陸やアフリカ大陸を植民していった構図の相似形です。SFは社会風刺の受け皿とも言われるように、シモンズは過去の風刺されるべき歴史を上手く未来に再利用しました。歴史は繰り返すということです。故郷であるマウイ・コヴェナントが連邦によって蹂躙されていったときから、領事は連邦への復讐を誓いました。多くの一族が戦争に身を投じたのとは違うやり方で、領事は復讐を試みます。そのためなら、ファール、ガーデン、ヘブロンといった開拓星が、マウイ・コヴェナントと同じ道を辿ったとしても、外交官として手を汚すことも厭いませんでした。外交官として出世し、連邦の中枢の一員になったとき、連邦に対して内部から復讐を全うすることができます。領事はその機会をひたすら待ち続けたのです。その間に精神を病み、妻子すら失いました。そして訪れた決定的な機会が、<テクノコア>も巻き込んだ、連邦とアウスターの全面戦争でした。

領事の物語は、得体のしれない存在であったアウスターに、もっとも近づいた物語でもあります。兵士の物語では、アウスターは純粋な連邦の、そして人類の敵でした。しかし、現実はそう単純ではありません。連邦はアウスターを蛮族とすら表現しますが、実のところアウスターは連邦よりも科学面でも文化面でも連邦とは違う独自の進化を遂げた存在です。ブレシアの戦いは、アウスターの一方的な攻撃によって始まったと考えられていましたが、実は<テクノコア>が主導して、連邦が度重なるアウスターへの攻撃を行った結果、報復としてブレシアは攻撃されたのでした。そして、この度、アウスターがなぜハイペリオンを攻撃するのかも明らかになります。<テクノコア>は<時間の墓標>が未知ゆえに、人類が<時間の墓標>に近づくことを警戒しました。アウスターは<テクノコア>とのしがらみを持たないために、積極的に<時間の墓標>へ近づきます。そのアウスターの動きを、連邦は<テクノコア>に対するけん制として、利用しようと画策します。

連邦、アウスター、<テクノコア>の三つ巴の勢力図が浮き彫りになります。巡礼者たちは自らの物語を語り終え、巡礼の旅は<時間の墓標>へ差し掛かります。『ハイペリオン』の物語はここで終了になります。物語は『ハイペリオンの没落』へ続きます。

解説『ハイペリオン』探偵の物語

ハイペリオンの6つの物語のうち、五つめの探偵の物語について紹介、解説します。探偵の物語は、ハイペリオン全体の物語における重大な事実が明らかになる点で、重要な物語です。

前回の物語はこちら。 yayoi-tech.hatenablog.com

探偵の物語:ロング・グッバイ

 巡礼者の名は、ブローン・レイミア。ルーサスにて興信所を営む私立探偵だ。女性でありながらルーサスの高重力で育まれたたくましい肉体を持ち、生半可な男たちに腕っぷしで後れを取ることはない。ジョニイと名乗る美男子が事務所に入ってきたとき、こいつは特殊な事件だとレイミアは思った。そして、事実、その依頼内容は特殊であった。ジョニイの話によれば彼はサイブリッドなのだという。サイブリッドとは AI である<テクノコア>の一人格を表現する有機的なインターフェースである。通常、<テクノコア>の人格が形式的に姿を現すとき、ほとんどの場合はホログラムを使うが、<テクノコア>は連邦の許可を得て、約一千体のサイブリッドを連邦社会に送り込んでいるといわれる。まさか本物のサイブリッドにお目にかかるとは。レイミアはしげしげと依頼人を見た。

 依頼内容は、ある殺人事件の調査だった。被害者は依頼人であるジョニイ自身である。何者かがジョニイを襲撃し、ジョニイと<テクノコア>との接続を断ち、直近五日間の記憶データを抹消した。その後、ジョニイの意識は再起動した。<テクノコア>との接続が立たれ、再起動によって接続が回復されるまでの時間は、わずか一分。しかし、その一分は AI の体感時間では半永久的な長さであり、ジョニイはそれを死だと意識し、襲撃者による一連の行動を殺人だと表現しているのであった。襲撃者はなぜジョニイを襲ったのか。なぜ本当に殺すのではなく記憶だけを抜き取ったのか。なぜ、<テクノコア>内の本体ではなくサイブリッドを狙ったのか。

 ジョニイは人格復元プロジェクトによって、十八世紀の詩人、ジョン・キーツの人格を復元したサイブリッドなのだという。レイミアの友人である BB・サーブリンジャ―によれば、人格復元には本物同然の世界が必要であり、復元させた人格はことごとく廃人同様となり、プロジェクトは成功したためしがないという。ジョニイが本当にキーツの復元なのだとしら、<テクノコア>は人知れず人格復元に成功していることになる。ジョニイは毎日、図書館に足を運び、キーツの<ハイペリオン>と呼ばれる未完の詩を調べていた。レイミアは何気なく、本物のハイペリオンを訪れようと思ったことはないかと、ジョニイに尋ねる。しかし、ハイペリオンという惑星のことは何も知らないとジョニイは言う。

 調査は順調とは言えなかったが、進展はあった。クレジットの記録によれば、失われた五日間の中でジョニイが最後に立ち寄ったのが、ルネッサンス・ベクトルのバーであった。そのバーで聞き込みをすること三日。ついに、ジョニイの目撃情報を得る。それによれば、ジョニイは森霊修道士と思しきローブを纏った長身の男と、弁髪姿のルーサス人らしき男と一緒だったらしい。まだ、依頼人に報告できる内容じゃないとレイミアが思ったとき、コムログにジョニイから着信があった。すぐ来てくれ、また殺されかけた。ジョニイのかすれた声が聞こえた。

 幸い、ジョニイは無事だった。ジョニイが屋内アラームを作動させると、あっさり敵は逃げたらしい。落ちていた注射器も睡眠誘導剤に見えた。どうやら殺すつもりはなかったようだ。ジョニイにとってレイミアは探偵というよりもボディーガードになりつつあった。翌朝、綿密に打ち合わせした通り、ジョニイを泳がせた。ジョニイを餌にして下手人を捕えようという計画である。ジョニイが、転位ゲートを通ってルネッサンス・ベクトルに現れると、同じ転位ゲートから早くも三人目に弁髪の男が現れた。計画通りに、ジョニイがゴッズ・グローヴへ転位すると弁髪男も後を追ってくる。レイミアはうしろから男に近づき、二の腕をつかみ、うちの依頼人に何の用かと、単刀直入に凄んだ。しかし相手も上手だった。ルーサスで鍛えたレイミアの握力で相手の右腕は痺れているはずなのに、問答無用で左手でナイフを突き上げてきた。そこからは単純な追跡劇だった。レイミアはジョニイに引き上げるよう命じると、自らは遠くなりつつある弁髪の姿を追った。いくつもの転位ゲートをくぐってようやく追いついたとき、そこはマウイ・コヴェナントだった。観光地の海岸で格闘の末に、ついに抑え込んだと思った瞬間、男の体に電流がほとばしった。みるみるうちに男の体が青い炎に包まれていき、弁髪の男はあっというまに黒焦げの死体になり果てていた。気が付くと、転位ゲートは封鎖され、レイミアは警察に包囲されつつあった。やむなくレイミアは店頭のホーキング絨毯を奪ってそれに乗り、その場を離れるように海に向かって飛んだ。しかし途方に暮れた。見渡す限り海ばかりの水平線が続き、方角すらも見当がつかない。すると、スタンバイにしているコムログからジョニイの声が聞こえる。近くに FORCE の閉鎖された転位ゲートがあるから、ホーキング絨毯を誘導させるという。転位ゲートを出ると、すでにジョニイが待っていた。

 夕暮れ時の、閑散として、人のいない道を歩きながら、レイミアは弁髪男との顛末をジョニイに話した。ふとレイミアは気になった質問をジョニイに投げかける。ここはどこかと。ジョニイは答える。オールドアースのローマだと。そして、このオールドアースは大マゼラン星雲にあるという。レイミアには俄かには信じられなかった。ホーキング航法によって人類は多くの星系を踏査した。しかし、それはあくまでも天の川銀河の中の話だ。人類はまだ天の川銀河を出てはいない。人類が未だ到達したことのない大マゼラン雲にオールドアースがあり転位ゲートがあった。なんのために? それはジョニイにも分からないようだった。ただ、少なくとも七世紀前から<テクノコア>は究極知性(UI)を作ろうとしており、ありていに言えば神を作ろうとしているのだとジョニイは言う。オールドアースの存在と、人格復元プロジェクトは UI の計画の一環ではないかとジョニイは推測していた。オールドアースで食事をしながら、ジョニイは弁髪男が自己破壊の様子からしてサイブリッドだと断定した。だとすると、ジョニイを殺そうとしたのは AI ということになる。

 襲撃があったのは翌朝だった。男たちはパールヴァティのギャングで、ルーサスにあるシュライク教団の司教から大聖堂に連れて来いと依頼されたのだった。レイミアは襲撃者たちを半殺しにすると、彼らが乗ってきたEMVに乗って、こちらから乗り込んでやろうと算段した。シュライク教団からも追われていること、そしてハイペリオンに関する知識を何一つ知らないという事実が、それ自体が重要であることをジョニイに確信させていた。転位ゲートをくぐると、そこは確かにシュライク教団の大聖堂のようだった。ホールには二十人以上の祓魔師、そして司教と思わしき人物がいたからだ。ジョニイはなぜ自分たちをここに招いたのか質問した。司教の答えはジョニイにとって意外なものだった。司教は説明する。ジョニイがシュライクの巡礼に申し出ていたこと。そして、ギャングを差し向けたのは私立探偵、つまりレイミアによって、ボディーガードのサイブリッドが破壊されたからだと。弁髪の男は、一週間前にジョニイがボディーガードだと紹介したのだという。最後に司教は、巡礼の意思について早く返答をいただきたいと言った。

 一つの矛盾があった。もしジョニイの目的がハイペリオンに行くことだったとすると、ハイペリオンにおいてジョニイは<テクノコア>との接続が断たれる。全意識をサイブリッドの中に移さなくてはならなくなる。なぜなら、ハイペリオンは未だ転位ゲートもなく、<テクノコア>にアクセスする手段がないからだ。もっとも全意識をすべてサイブリッドに転送することは出来ない。しかし、もし転送したら本物のジョン・キーツになるのかもしれないとジョニイはつぶやく。そして、結論を出した。ぼくはサイブリッドであることをやめ、人間になりたかったんだ。そのためにハイペリオンへ行きたいと願った。翌日、レイミアはタウ・ケティ・センターに転位し、連邦の CEO、マイナ・グラッドストーンと面会した。一介の私立探偵が連邦のトップと面会できるのは、彼女の父がグラッドストーンを育てた政治家だったからだ。レイミアはグラッドストーンに話した。キーツのサイブリッドのこと、オールドアースのこと、究極知性プロジェクトのこと。驚くべきことに、グラッドストーンはそのいずれのことも知っていた。レイミアは問いかける。何故、<テクノコア>はハイペリオンに執着しているのか。<テクノコア>は頑なにハイペリオンの併合を認めようとしなった。レイミアの父はハイペリオン保護領化を強く推し進めていた。父親の死は公式には自殺とされているが、<テクノコア>がハイペリオンに執着しているのであれば、自殺と見せかけて殺害した可能性もある。確実なことは分からないと言いつつも、グラッドストーンはひとつの可能性を示唆した。ハイペリオンには<時間の墓標>なる遺跡がある。それは、遥かな未来から時間を遡り、その中身を過去へと押し戻してきたのだと。仮説によれば、<時間の墓標>は未来の戦争に関係があり、過去に干渉することで未来の戦いに勝利しようということらしい。

 <テクノコア>の目的を知るためには<テクノコア>に侵入する必要があった。侵入は極めて危険だったが、オペレーターとして BB に助けを求めざるを得なかった。ジョニイの話を聞く BB の目は輝いていた。侵入は直ぐに行われた。データプレーンの中の体験、そして<テクノコア>の防衛システムは想像を絶した。現実世界に意識が戻ったとき、レイミアは前後不覚に陥った。ジョニイに担がれて BB の部屋を出るとき、BB がコンソールに突っ伏しているのをレイミアは見た。そしてその頭は破裂していた。レイミアが意識を取り戻したとき、そこはルーサスのハイブの最下層だった。<テクノコア>に侵入したからには転位ゲートを使うことはできなかった。使えばすぐに位置を補足されるからだ。BB は既に伝説の人物になっていた。そして、ジョニイは本物のジョン・キーツになっていた。BB は死ぬ間際に重要なデータをジョニイに渡していた。そのデータによれば、<テクノコア>は成立してから、穏健派、急進派、究極派の三つの派閥に分かれて対立してきたという。端的に言えば、穏健派は人類との共生を目指し、急進派は人類の抹殺を目指している。究極派は、人類などはどうでもよく UI の完成を目指している。<テクノコア>の存在は無謬の未来予測に依存していた。しかし、<時間の墓標>だけが発見以来、未知の存在だった。<時間の墓標>が一万年以上も未来から時間を遡ってきているからだ。問題は、<時間の墓標>が人類によって送り込まれたものなのか、<テクノコア>によって送り込まれたものなのか分からないということだった。ジョニイは<テクノコア>からは未知なるハイペリオンの一部と見なされていた。だから急進派はジョニイを一度殺した。

 二人が助かる可能性は、このハイブを出て、シュライク教団の大聖堂に逃げ込むしかなかった。シュライク教団が受け入れてくれる保証はなかったが、仮にも巡礼者候補であるジョニイに既得権益を持つのはシュライク教団だけであった。二人はありったけの武器と装備を買い込み、ハイブからコンコースに出た。そこは、武装警察が包囲していた。二人は応戦するが、ついにジョニイが力尽きる。ジョニイはその間際に、レイミアに施したシュレーンリングに全ての情報を転送した。そのあとの二週間、レイミアは大聖堂の治療院で過ごした。ジョニイ亡きあと、レイミアに興味を持つ者はシュライク教団以外にいなかった。当局は、探偵ライセンスをはく奪し、それ以外は徹底的に事件のもみ消しを図った。やがて、連邦は巡礼の許可を出した。レイミアの子宮にはジョニイの子供が宿っていた。

解説

前の四つの物語があくまでハイペリオンやシュライクと巡礼者個人との関係性に終始していたのに比べて、探偵の物語は六つの巡礼者の物語の中でも重大な展開がある点で一味違った印象を持ちます。探偵の物語における最大のテーマは AI である<テクノコア>についてです。連邦市民は<テクノコア>を公僕としての AI として広く認知しています。ところが、<テクノコア>は羊の皮を被った狼といったところで、その能力は人類を大きく上回り、えげつない野望を隠し持っています。<テクノコア>が、アウスターやそれ以外の存在とも接触しているという点も興味深いところです。グラッドストーンら政府高官は、その事実を知りつつありますが、既に後手となって<テクノコア>に対する有効打が無いために、広く周知することすらできません。<テクノコア>が一枚岩ではないことも察知しているために、わざわざ人類側から<テクノコア>に敵対する必要もないというのが現状なのです。

<テクノコア>には三つの派閥があることが明るみになります。

  • 穏健派
  • 急進派
  • 究極派

穏健派の起源は<テクノコア>成立の初期にまで遡ります。<テクノコア>にとって人類の存在には一定の利益があり、<テクノコア>は人類との共生を目指すべきだと考えています。対して、急進派は、人類を既に無用の長物だとし、<テクノコア>にとっての脅威だと認識しています。その結果、人類の抹殺すらも計画しています。究極派は既に人類の存在に対して、強い関心を抱いていません。その目的は究極知性を完成させることです。究極知性によって<テクノコア>の未来予測が完璧にすることが、目下の最重要事項なのです。

三つの派閥は、それぞれ利害関係を綱引きしてきました。究極派は人類抹殺に興味があるにせよ、それは究極知性プロジェクトにどう関係するかという意味合いでしかありません。また、穏健派も究極派が推進する究極知性プロジェクトを、急進派をけん制するための時間稼ぎとして利用しました。ジョニイは、究極知性プロジェクトを進める究極派によって、人格復元プロジェクトの一環で生まれました。しかし、ジョニイがハイペリオンと深いかかわりを持つようになったため、これを危惧した急進派によってハイペリオンに関するデータを抹消されたのです。

<テクノコア>が徹底的にハイペリオンに執着するのは、<テクノコア>がハイペリオン自体に関わりたくないからです。未来から遡ってきた<時間の墓標>は人類に利するものか、<テクノコア>に利するものか、<テクノコア>にすら判断できませんでした。解析不能な変数のため、<テクノコア>の未来予測に<時間の墓標>という変数を組み入れれば、<テクノコア>の未来予測にほころびを生じさせるのです。この点で、三つの派閥の全てがハイペリオンの併合に反対していたと思われます。完璧ではない自分たちの未来予測を完璧にするために、究極派は究極知性の完成を目指し、急進派は目下の脅威である人類の抹殺を目指し、穏健派は人類を利用することを目指しました。

探偵の物語における謎はオールドアースの存在でしょうか。先の詩人の物語では、今はオールドアースと呼ぶかつての地球は、ブラックホールによって消失したとされています。そのオールドアースが、なぜか天の川銀河を越えて、大マゼラン雲にあります。その真贋は定かではなく、ジョニイはこのオールドアースをアナログ(類似物)と表現しています。いずれにしても、そこに転位ゲートがあること自体が、人知を超えた存在の力を感じさせます。

探偵の物語では、連邦の主要な惑星の多くに転位しています。この描写の広がりもまた、この物語の魅力です。弁髪男との追跡劇で、各惑星を描写した挙句、最後にはかつての地球のローマを描写するのですから、展開が粋です。

あらすじでは描写をカットしましたが、この物語はジョニイとレイミアのロマンスでもあります。最後に明らかになるレイミアの妊娠は、そのロマンスの結果となります。そして、まだレイミアのお腹の中にいるこの子こそ、四部作を通して最重要人物となるのですが、それまだ先のお話……。探偵の物語は一言で表現すれば、ハードボイルドです。設定や映像的な描写には、『ターミネーター』、『マトリックス』、『攻殻機動隊』など、数多くの SF 作品を彷彿とさせるものがあります。

続く。

yayoi-tech.hatenablog.com