弥生研究所

人は誰しもが生きることの専門家である

【レビュー】サイバーパンク2077~ありがとうCD PROJEKT RED

【ネタバレ無し】12/10(木)に発売されたサイバーパンク2077の感想を残しておこうと思います。

www.spike-chunsoft.co.jp

www.cyberpunk.net

改めて説明するまでもないかもしれませんが、サイバーパンク2077はポーランドのゲーム開発会社である CD Projekt RED が開発したアクションRPGです。2077年という近未来、カリフォルニア州のナイトシティという架空の都市を舞台としたオープンワールド系のゲームです。

売上は予約時点で800万本を超え、12/20には累計1300万本を超えたと公式発表されています。さらに、予約分の売り上げが、すでに開発費と広告費の全額を越えている見込みを発表しています。一方で、発売前には当初4/16であった発売日と9/17に延期し、その後、11/19、12/10と、最終的には累計で3度に渡って発売を延期し、開発の困難さを露呈しました。延期に至らせた品質の向上に関しては、発売時点でも十分であったとはいえず、多くのバグを抱えた本作は批判を受け、返品対応やダウンロード版の販売中止などが発生しました。

さて、ではひとりのプレーヤーからみたサイバーパンク2077はどうでしょうか。私は、発売日に購入し、12/31今日時点でプレイ時間は100時間を超えた位です。メインストーリーは一通り消化し、いわゆる一週目はクリアした状態です。今は、二週目をプレイ中で、一週目で消化できなかったサイドジョブや選択肢を楽しんでいるところです。プラットフォームはPS4(通常版)のダウンロード版です。

まず、世間でも騒がれているバグ、つまりゲームとしての価値の前に、製品としての品質について言及したほうが良いでしょう。残念ながら、品質に関しては褒められた状態ではないのは間違いありません。一番困るのはプレイ中にフリーズして落ちることでしょうか。これは数時間に一度の頻度で発生しました。ただし、オートセーブやクイックセーブが用意されているので、いきなり終了しても致命的なことはありませんでした。とはいえ、クリア後のエンドロールで強制終了したときはさすがに興ざめして閉口しましたが。進行不能バグもあるようですが、私は幸い遭遇することはありませんでした。一部のサイドジョブは一時的に進行できないものもありましたが、最終的に進行不能という状態になったことはありません。一部の界隈では返品や訴訟などの問題として大きくなっているものの、遊べないレベルのものではなく、作品自体はむしろ遊んで十分楽しいものです。なお、私のプラットフォームは通常版のPS4であるからにして、最もバグに遭遇する頻度が高いプレーヤー層の一人であることは間違いないでしょう。その私が、サイバーパンク2077は十分楽しめる品質に至っていると判断しています。CD Projekt RED の前作であるウィッチャー3もバグが多かったことを顧みれば、サイバーパンク2077の品質も今後改善されていくことが期待できます。低い品質の原因については推測の域を出ませんが、コロナ禍の影響を除けば、発売時期がPS4とPS5の過渡期に当たったというのが主な原因ではないかと思います。PS4ではグラフィックの劣化ぶりが騒がれましたが、実際、PS4でプレイする私でも読み込みの遅れは、ほぼ常時発生していました。サイバーパンク2077は、どちらかと言えばPCのフラッグシップモデルで最適化されていました。開発元の CD Projekt RED は、コンシューマーゲーム機での映像表現について、広報の考慮が足りていなかった旨を公式に発表しており、これが同社の返品対応へと繋がっています。

次にゲームとしての本質について少し触れます。ウィッチャー3のプレーヤーであった私にとって、サイバーパンク2077の挑戦は一人称視点(FPS)であったということです。これにより、結果的に何がもたらされたかというと、主人公であるVの個性が前面に出るのを抑え、プレーヤーをより主人公としての立ち位置に寄せることになりました。ウィッチャー3はゲラルトという強烈な個性をもった主人公を三人称視点で描くことで、プレーヤーは主人公に共感する傍観者でしかありませんでした。これは、最終的にどちらが好みかという結論に帰着するものの、プレーヤー自身が物語の主人公になってほしいという開発側の意図をくみ取れるもので、それは十分機能していると感じました。その点で、キャラクターメイキングで選択できる性別は、プレーヤー自身の性別認識に添ったほうが良いだろうと思ったくらいです。自分自身を男性だと認識するプレーヤーが女性主人公を操作すると、プレイしていてどことなく違和感を感じます。それはプレーヤーが主人公の傍観者ではなく、主人公そのものであることを意図しているからであろうと推測します。

ゲームとしての本質に関しては、ゲーム性と物語に分けることができます。ゲーム性は一人称視点という特徴に加えて、アクション面に着目することができます。サイバーパンク2077は主に、FPSとしてのアクションに注目が向きがちですが、実はそれだけにとどまらない多様なプレイ体験を実装しています。主人公のビルドによっては、全くの別のゲームではないかと言えるほど、ゲーム体験に違いがあります。まず、本来FPSを独擅場とする銃火器について、言わずもがな多くのバリエーションがあります。ハンドガン、マシンガン、ショットガンと言った従来の種別に加えて、それぞれの武器種がパワー、テック、スマートといった独自の分類に分けられています。それぞれの分類に対して使い勝手が異なるので、同じハンドガンという種類を使ってもゲーム性がかなり違います。ただ目標をエイムして引き金を引くだけの行為にバリエーションを持たせたことは、ゲーム性の向上に高く貢献しています。例えば、グランドセフトオート5(以下、GTA5)は、近代的な街並みを自由に歩き回るという点で、サイバーパンク2077と似た印象を持つことができます。ただ、GTA5には武器の違いはあれど、エイムしてトリガーする単純作業に違いがありませんでした。フォールアウト4(以下、FO4)では、V.A.T.S. と呼ばれるコマンド式のシステムがエイム・トリガーの単純作業に幅を持たせることに成功しました。ほかにもバイオショックや、ボーダーランズなど、FPSというシステム性でRPGの分野に進出したゲームは、いずれも単なるエイム・トリガーにならないような工夫が見られます。今では、純粋なエイム・トリガー型のゲームは、競技性を強めてEスポーツの分野へと進出し、あくまでも一人遊びであるRPGの中では、もはや選ばれにくい選択肢かもしれません。サイバーパンク2077は、RPGFPSを実現するための、ひとつの解をまた生み出しのではないかと思います。個性的な武器で飽きさせない特徴は、どことなくボーダーランズと同じ方向性を感じました。銃火器だけではありません。近接武器にもかなり力が入っています。サイバーウェアやパークを組み合わせると、一方的に敵をなぎ倒していくことができます。ステルスプレイに徹しようとすれば、メタルギアソリッドのようなプレイ感を得ることもできます。さらに、クイックハックなどを駆使すれば、それこそ攻殻機動隊さながらに、電脳戦で一方的に相手を無力化することが可能です。とにかく、自分が目指すプレイスタイルによって、その都度新しいサイバーパンク2077を知ることになります。

物語に関しても大きく舵を切ってきました。発売前からすでに言及されていたことですが、メインストーリーはウィッチャー3に比べるとだいぶ短くなっています。それでも、プレーヤーを飽きさせない牽引役として物語は十分に機能していました。もし、ボリューム不足を感じたのであれば、これから予定されているダウンロードコンテンツに期待しても良いのではないでしょうか。私は、何の事前知識もなくサイバーパンク2077を遊び始めた口ですが、グイグイと引き込む展開の中で、明らかになる深いテーマ性と、壮大な世界背景には意外な気持ちがしました。サイバーパンク2077にどのようなテーマを見出すかは、プレーヤーそれぞれだと思います。私は、サイバーパンク2077が狙っているテーマは、生き方と死に方、つまり死生観だと思います。科学技術の発展により、肉体と機械と精神は、より不可分になっていきます。それに付随する問題は数多くのSF作品がテーマとして扱ってきました。サイバーパンク2077もその系譜の一つと言えるでしょう。どんなに、科学技術が発展しても、生まれて死ぬという生命としての宿命は避けられません。そこから生まれる苦悩や幸福に関しては、原始の頃から全く変わらないものです。人間は変わっているようで全く変わっていないのです。でも、もしそれが変わるとしたら……。もし、まだプレイしていない人がいたら、もしクリアしていない人がいたら、ぜひ自分だけのストーリーを全うしてください。

思えば、CD Projekt RED のゲームを遊ぶのはウィッチャー3以来のことでした。それは、血塗られた美酒にて、ゲラルトにカメラ目線で微笑みかけられて以来の再会です。私は、あのエンドロール直前の最後のシーンこそが、CD Projekt RED の姿勢の神髄だと思っています。彼らのものづくりの先には、常にプレーヤーである私たちがいます。作中の主人公がプレーヤーに直接メッセージを送る手法は、今までにない感動を私にもたらしました。その感動の熾火が私をサイバーパンク2077へと仕向け、彼らの誠意に当てられたからこそ予約販売が800万本を超えたのです。彼らの誠意はまだ健在です。返品対応もその一つです。彼らはプレーヤーに対して誠実であり続けています。

私が、サイバーパンク2077の感想として言いたいことは一言なのです。ただ、ありがとう、その一言なのです。度重なる発売延期とコロナ禍の中で、開発会社内ではクランチと呼ばれる過労状態があったことも報道されました。彼らは、そしてサイバーパンク2077は、十分に私の期待に応えてくれました。こんなゲーム体験を提供してくれて、本当にありがとう。発売日が12/10という年末に延期されたことで、私はむしろ充実した年末を過ごすことができたかもしれません。一日中ゲーム漬けになるのは久しぶりのことです。おかげで、私なりに良い年を迎えることができそうですよ。本当は、もう少し早くサイバーパンク2077について書きたいところだったのですが、ついついプレイを優先してしましました。

それでは、最後に一言。

「よお、チューマ。いい年を迎えろよ。」(森川智之さんの声で)

【PS4】サイバーパンク2077

【PS4】サイバーパンク2077

  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: Video Game