弥生研究所

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【レビュー】オクトパストラベラー

『オクトパストラベラー』の感想を残します。

プレイ時間は40時間ほど。未クリアです。未クリアのままレビューを書くに至ったことから、一言でいえば完走できませんでした。評価としては「丁寧な作品だが、ゲームとしては面白さに欠ける」ということになります。ただし、今後、再プレイしてクリアまで行き着くことはあるかもしれません。既に名作の評価が一般的になりつつある本作です。実際にプレイしてみると、作品として高い完成度を感じる一方で、ゲームの面白さには一抹の不満を感じました。これを、私なりに分析したいと思います。

『オクトパストラベラー』はスクウェア・エニックスが発売したRPGです。2018年にSwitch版が発売されて以降、順次、マルチプラットフォームで発売されています。その特徴は、HD-2Dと呼ばれる、ドット絵と最新の3D効果を融合させた表現システムにあります。JRPGとして原点回帰しつつ、技術的には革新を目指しています。売り上げは、2020年3月時点で200万本を突破し、JRPGとして大成功したと言えるでしょう。

オムニパス形式のストーリー

ストーリーのボリュームは結構あります。主人公が8人いて、それぞれに4章分のストーリーが用意されているため、合計で32章のストーリーがあります。1章を2時間でクリアしていくと合計で64時間かかる計算です。実際、そのくらいの時間はかかる印象です。このボリュームを大きいと感じるか小さいと感じるか、あるいはメリットと感じるかデメリットと感じるかは人それぞれかもしれません。少なくとも価格には見合ったボリュームです。

1キャラクターに対して4章分で起承転結するので、それぞれのストーリー自体は小粒です。ただし、キャラクター自体に背景や個性がしっかりと設定されているため、浮ついた印象はありません。重めのストーリーから軽めのストーリーまで緩急が付けられています。各主人公たちのストーリーは当初は全く独立しています。ただしストーリーが進展するにつれて各主人公の物語が収束していくようです(未クリア)。起承転結がしっかりしたストーリーとなっているので、ひとつひとつは小粒とは言え十分楽しめる範囲にあります。

物語の進行を自由に選択できる都合上、前章のストーリーを忘れがちですが、ストーリー開始時に前回のあらすじをきっちり説明してくれる親切設計になっています。プレイに少し時間が空いたとしても感情を呼び戻しやすく何をすべきか明確で、復帰しやすいです。

美しく、新しくありながら懐かしいグラフィック

グラフィックがリアルであればリアルであるほど良いという考え方は、ゲームの在り方にもよるでしょう。ゲームは長らくリアル志向の道を歩んできましたが、それは容量の増加や処理速度の向上など技術的な進展が背景にあったためです。しかし、技術が成熟するにつれて、技術的な制約ゆえの抽象的表現ではなく、積極的な抽象的表現が選択肢として現れるようになりました。ドット絵への懐古は、まさにその現われであり、本作のHD-2Dは積極的に選択された抽象的表現だと言えます。積極的に選択されているために、全ての映像表現が時代を逆行した過去のものではありません。ドット絵を主体としておきつつも、ドット絵では表現しにくい、光や水の表現には培われた新しい技術が使われています。

「温故知新」という表現が一番ふさわしい映像表現こそが、結果的に本作の最大の特徴であり魅力です。SFCから初期PSあたりのゲームをプレイしてきたゲーマーには懐かしさを思い起こさせ、それらを経験していない若いゲーマーには新しさを提供するという、実に幅広いターゲットに対して訴求する効果が本作の映像表現にはあります。

音楽、ネーミング、印象と雰囲気

地名の命名にこだわりを感じます。例えば、フレイムグレースは「炎」と「恵み」、やゴールドショアは「黄金」と「海岸」。その地の特徴を考えると、なんとなくイメージに合ったネーミングになっていると思いませんか。ステレオタイプな印象もありますが、ここまで直球な命名も珍しいように感じます。併せて、音楽もイメージを合わせて作曲されている印象が強いです。このあたりの作りこみは丁寧で、完成度が高く、売り上げの大部分に貢献しているのではないかと思います。

マップ、ダンジョンの踏破と戦闘システム

さて、ここまでオクトパストラベラーの良い点を挙げてきましたが、結局のところ、私がプレイを中断してしまった原因は、戦闘システムにあります。

まず、本作の戦闘システムの特徴を整理します。

  • ダンジョン探索型、マップ踏破型(旧来のドラクエなどと同様)
  • ランダムエンカウント
  • コマンドバトル
  • ターン制(ターンの中で敵味方含めて素早いキャラクターから行動)
  • ブースト
  • ブレイク

このうち、ブーストとブレイクが本作の戦闘システムを特徴づける要素です。ブーストはターンごとに蓄積するもので、溜まったブーストを使用した攻撃はダメージが増加する仕組みです。ブレイクは敵毎に設定された弱点を突くことで、敵をブレイク状態(無防備な状態)にするものです。ブレイク状態の敵は行動がキャンセルされるほか、被ダメージが増加する仕組みになっています。

つまり、敵に効率よくダメージを与えるには、ブレイクした敵に対してブーストを乗せた攻撃を当てることが肝要となります。その為には敵の弱点を網羅することと、ブレイクのタイミングに合わせたブースト管理が必要です。本作の戦闘システムは、ブーストとブレイクを前提とした難易度設計になっているため、これらの要素はほぼ無視できません。昨今のJRPGとしては比較的、重量感があり難易度の高い戦闘システムと言えるでしょう。

これらのシステムは漫然とした戦闘を防ぎ、プレーヤーに緊張感を持たせる効果があります。しかし、言い換えると一回の戦闘時間は長引き、集中力を必要とするためサクサクしたテンポはありません。このようなゲームバランス自体は珍しいものではなく、『タクティクスオウガ』などのSRPGや、『ヴィーナス&ブレイブス』などの独自性の強い戦闘システムにも見て取れます。

では、本作の戦闘システムの問題点は何でしょうか。それは、重量感のある戦闘と、ランダムエンカウントの食い合わせの悪さにあります。例えば、ドラクエシリーズやFFシリーズは、ともにランダムエンカウント制ですが、戦闘のウェイトは軽いためテンポを失うものではありません。戦闘のウェイトを軽くする場合は、ダンジョンやマップの踏破を含めてクリア可能かというバランスに緊張感を持たせる仕組みが常套です。薬草やMPが足りるかどうかハラハラする場面は、往年のRPGの醍醐味であり、意図されたレベルデザインです。しかし、もしこのバランスの中で戦闘の重量感だけが増した場合はどうなるかというと、テンポを失って単純にプレーヤーが疲れます。

ランダムエンカウントなのにテンポが悪く、戦闘の重量感がある割にはランダムエンカウントで数をこなさなければならない。このどっちつかずとなっている状態が、本作の設計の調整不足を否めません。ゲームとしては、何処かに仕組みとしての緊張を用意する必要がありますが、メリハリなしに繰り返し緊張に晒されてしまうとストレスにしかなりません。本作の戦闘はどちらかというと緊張過多で、全体として爽快さや快感よりも疲れるゲームになっています。

また、ブーストやブレイクが戦略性の高い戦闘を提供しているかというと、それもまた疑問です。確かに戦略性はある程度は高くなっていますが、思考する楽しさを提供するほど難しくなく、単純作業にはできない程度の注意力を要するという、絶妙にバランスの悪い難易度設計になっています。結局、この戦闘システムの調整の悪さが、全体としてぼんやりとしたプレイ感に繋がっています。

さらに、本作はジョブやアビリティが用意されていて、8人の主人公から4人のパーティを組むなど、パーティ編成やキャラクターの育成にも重点が置かれているように見えます。しかし、敵の弱点を網羅しなければならない制約があるため、実のところ育成や編成に関しては、自由度の高さ、懐の深さ、味わい深さなどはありません。これは戦闘を単調にさせる要因にもなっています。また、この点では、本作はほぼリプレイ性はありません。

私は何度か息切れしてしまい、中断して再開するという繰り返しを経て、全キャラクターの三章まではクリアしました。しかし、四章までは現時点ではモチベーションが続きませんでした。

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