弥生研究所

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【レビュー】聖剣伝説3 TRIALS of MANA

FF7R が4月10日に発売されましたが、その裏側で聖剣伝説3のリメイクが4月24日に発売されました。FF7Rが話題を掻っ攫っていったのでノーマークだった人が多いのではないでしょうか。最近では聖剣伝説シリーズは、めっきり低迷してしまっていましたが、今回のリメイクは本当に良リメイクです。これを機に、聖剣伝説シリーズが再評価され、次の大型リメイク、新作などに繋がってくれればなあ、と大いに期待が膨らみました。

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - PS4

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - PS4

  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: Video Game

リメイクとして誠実なできばえ

今回のリメイクは、移植ではなく、ありとあらゆるものを一から作り直したものですが、グラフィックや音楽など何をとっても、雑なつくりだなと思わせるような要素は無く、誠実なつくりという好印象をまず受けました。キャラクターの具体的な造形や、声優によるフルボイスは、オリジナルにはなかったものですが、まるでオリジナルからそうであったかのような自然さで、違和感を感じませんでした。

新要素・変更点

新要素や変更点はかなりの数に上るので、主なものを挙げると以下の通りとなります。

  • 育成ポイントやリンクアビリティによる育成システムの強化
  • クラス4の新規導入
  • サボテン君のご褒美という痒い所に手が届く機能
  • クリア後のコンテンツの追加
  • 攻撃のバリエーションの充実化

どれをとっても、ゲームとしてのボリュームを増やす方向になっています。おそらく、オリジナルのシステムそのものでは、最近のゲームとしてはシンプルすぎると判断したのでしょう。どの新要素・変更点もマイナス評価になるようなものはない、というのが素晴らしいです。

リメイクだからこそ出来たこと

グラフィックは特に注目されていて、アンジェラやリースの可愛さは、もう発売前から騒がれていましたから、もはや強調するまでもないでしょう。アンジェラやリースは、オリジナルの当時から人気がありましたから、その地力に昨今の技術を組み合わせれば、さもありなんという結果です。

私が、特筆したいとしたらシャルロットでしょうか。シャルロットのフルボイスは最高にハマっていて、それだけで主人公にする価値があります。私は、シャルロットがプレイしていてこんなに楽しいキャラだと知りませんでした。オリジナルでは肉声はありませんでしたから、文字のセリフだけでシャルロットの魅力を表現するのは相当難しかったと思います。文字だけだとウザったさやあざとさなどの、ネガティブな印象がどうしても前に出がちなのでしょう。シャルロットのフルボイスは、リメイクだから出来たことの好例だと思います。

BGM は全体的にオーケストラになっていますが、原曲の雰囲気は全く壊れていません。オリジナルに懐古したい人には、原曲に切り替える設定が可能です。こういう細かいところにも配慮が行き届いているあたり、リメイクで心がけるべき温故知新が徹底されています。

アンジェラの最弱の汚名返上

バランス調整が不十分だったと開発者が語る通り、オリジナルには致命的な仕様がありました。それが、敵のカウンターです。オリジナルでは、味方が魔法や必殺技を使用すると、敵が強力な魔法や技で確定で反撃してくるという仕様がありました。このため、魔法や必殺技は終盤の華でもあるにもかかわらず、敵のカウンターを避けるために終盤ほど使われないというジレンマがありました。この、環境の逆風を最も受けたのが、アンジェラです。アンジェラの攻撃は魔法が主体となる為、主人公の三人に選ばれることは少なく、一方で強力な通常攻撃を持つケヴィンなどが重宝される傾向がありました。一言でいえば、キャラクターやクラスには理不尽な格差があったのがオリジナルでした。

リメイクではこのような仕様は綺麗になくなりました。アンジェラは本来の想定であろう強力な魔法を気兼ねなく撃つことができます。かといってアンジェラ一強でもなく、キャラクターの理不尽な格差は完全に解消されていると言えます。

アンジェラの復権から分かるように、オリジナルではダメだった部分が思いつく限りでは解消されているのは地味にすごいことです。

オリジナルのゲームデザインを忠実に踏襲

リメイクとオリジナルの両方に共通して言えることですが、聖剣伝説3はゲームとしてのボリュームはそれほどありません。リメイク版では、割と丁寧にプレイしたとしても、20時間もあればクリア後の追加コンテンツも含めて遊べてしまいます。また、難易度も全体を通して低めで、サクサクと進めることができるのが大きな特徴です。オリジナル版でも、当時小学生であった私が、苦労せずにクリアまで行き着けた記憶があります。

最初に結論を言ってしまうと、聖剣伝説3ゲームデザインは、サクサク進めて、パーティとクラスチェンジの組み合わせに新しい発見をして楽しむ、というものだと考えています。そのため、ボリュームをある程度おさえて、周回しやすくするという作りは、ゲームデザインに沿ったものです。

そもそも、聖剣伝説3は単純にボリュームが少ないのかというとそうではありません。主人公は六人いて、それぞれにストーリーがあり、ラスボスは主人公に応じて三つのパターンに分かれます。全てのラスボスを倒すだけでも、単純に三周する必要があります。つまり、聖剣伝説3は周回することが前提となっていて、そのためのボリュームや難易度になっているのです。

リメイクで追加された、強くてニューゲーム、引継ぎ可能なリンクアビリティ、サボテン君などの要素は、周回のしやすさというゲームデザインの基本的な考え方を踏襲するものになっています。逆に、周回を妨げるような要素、周回のし辛さを感じさせる要素はありません。この点において、リメイクするにあたり、オリジナルのゲームデザインをきっちりと分析し、そのデザインを壊さずに踏襲できる新要素が設計されています。

ちなみに、聖剣伝説3のプレイ体験は、パーティ編成とクラスチェンジに左右されます。その組み合わせがどれだけあるかというと、六人の主人公から三人を選ぶ時点で、6C3通り=20通りあります。さらにクラスチェンジの組み合わせを加えると、一組のパーティ編成には、一人当たり4通りのクラスチェンジがあるので、三人分で4の3乗通り=64通りがあります。これが20通りのパーティ編成それぞれにあるので、全体の組み合わせは64×20通り=1280通りあります。この膨大な組み合わせの中から、火力を求めるもよし、快適さを求めるのもよしなのですから、プレーヤーそれぞれが遊び方を追求することができます。