弥生研究所

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三国志展に行ってきた

夏休みが終わる前にはいかなくては、という使命感のもと、平日に休みを取って、上野の東京国立博物館で開催されている三国志展に行ってきました。というよりも、二か月くらい前に行ってたのですが、なかなか記事がまとまりませんでした。

三国志展は、中国各地で発掘された副葬品などを主に展示したものです。なので、三国志展という名を冠しながらも、中身の雰囲気はむしろ三国時代展といったほうがぴったりで、三国志的な物語の要素はあまりありません。とはいえ、発掘品だけでなく、横山光輝の漫画や、NHK人形劇、ゲームの三国無双に関する展示もあったりするので、興味を失いにくい構成ではありました。

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トーハク三国志

私が興味をもった展示物をいくつか紹介します。

玉豚(ぎょくとん)は、豚の形を模した玉(きれいな石)のこと。曹操の父、曹嵩の墓(が有力説)から出土しました。死後の世界でも豚肉が食べられるように、遺体に握らされました。豚肉はおいしいよね。曹嵩レベルの人にすら、握らされたんだから、豚肉は今とは比べ物にならないほど貴重で高級な食材だったんだろうなとしみじみ感じます。曹嵩は豚肉が好きだったのかなと想像も捗ります。

玉装剣(ぎょくそうけん)は、青銅製で美しく装飾された剣のこと。劉備が祖とした中山靖王劉勝の墓から出土しました。劉勝の時代は前二世紀末で、時代が下ると武器は青銅製から鉄製に変わります。この玉装剣は最後の青銅製の武器の一つです。武帝の積極的な対外政策と前漢の絶頂期が、青銅製武器と鉄製武器の移行期と重なるのが興味深いですね。

熹平石経(きへいせきけい)は、洛陽の太学の門外に建てられた経書の石碑です。当時の書物といえば、人力で書き写したものだったので、間違いが多かったのです。蔡邕は霊帝に奏上し、正しい文章を石碑に刻んで広めました。霊帝は暗愚と評価されがちですが、教育に理解がある辺り、あながち暗愚とも言い切れないのではないでしょうか。一方、この石碑は、董卓の時代に三分の二が破壊されることになります。董卓は、当時の通貨である五銖銭の質を低めていたりもしていて、三国志で表現されている以上に、いろんな意味でマクロな破壊者です。ちなみに、使われている漢字は現代の日本語とあまり変わりがなく、「読める!読めるぞ!」とムスカ大佐の気持ちになれること請け合いです。正確には漢文が分からないと読めないのですが、日本の古文よりもだんぜん親近感があります。美しさすら感じる漢字です。

網代文陶棺(あじろもんとうかん)は土器の棺です。棺の材質は木が貴ばれていたので、薄葬(葬儀にお金を掛けないこと)を遺言した人物のものと考えられるようです。それにしても、サイズが小さいです。図録によれば長さ141cm、幅41cmとありますから、当時の平均的な体格が今より小さいであろうことを考慮しても、かなり小さいです。子供かな?

蛇矛(じゃぼう)は、蛇の舌を模した矛先をもつ矛です。私のイメージだと、刀身がフランベルジュのように波打っているイメージだったのですが、発掘されたものは蛇の二股の舌を形どったものです。突くというよりは振り回して引っ掛けるように使ったのでしょうか。いずれにしても実在はしているようです。こんなものを張飛が振り回していたのだと思うと、私だったらなりふり構わず逃げますね。

毋丘倹紀功碑(ぶきゅうけんきこうひ)は、高句麗遠征の勝利を記した石碑とされています。私が何よりも驚いたのは、近年の研究では、毌丘倹(かんきゅうけん)ではなく毋丘倹(ぶきゅうけん)とされる、ということですね。初めて知りました。

製塩図磚(せいえんずせん)は、製塩の工程を図にして煉瓦にしたものです。蜀は内陸でありながら塩の産地でもありました。劉備は入蜀ののち、塩の専売を行いました。考えてみれば、海のない蜀の地では塩がとれなければ自立することができません。蜀が三国の一方として自立できたのは塩という大前提があったからでしょう。

さて、ほかにもいろいろ興味深いものがあったのですが、熱心に見続けると集中力が切れますね。私は、一回だけだとすべてを楽しみ切れないような気がしました。本当に好きな人は、何回か通うんでしょうね。ちなみに、このような展覧会は、なんだかすごい久しぶりに来たので、えらく疲れました。通常展の方もつまみ食いしたので、四時間くらいはトーハクにいました。

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図録

あと、図録はぜひ買いましょう。図録は一言でいえば展示物のカタログです。これはおそらく、図録だけ買っても楽しめるものではないです。図録は実際に足を運んで得た経験を、記憶から呼び起こすためのツールです。逆に、三国志展に行った人なら、図録があれば家に帰ってからも妄想が捗ります。

三国志展の魅力はやはり発掘された出土品にあります。死後の世界で困らないように、日用品(を模した土器)などを副葬していたので、副葬品からは当時の日常を伺うことができます。つまり、副葬品という媒体を通して、今それを見ている私と、二千年前にそれを作った人が繋がるのです。何というロマン!  副葬品にまつわる人たちが見ていた三国時代の世界を、副葬品を通じて私たちが見ることができるというわけです。妄想が捗りますね!

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お土産は温州みかん(ほんとはクッキー)