弥生研究所

人は誰しもが生きることの専門家である

解説『ハイペリオンの没落』3

第三部です。第三部は長いのでさらに前半と後半に分けます。文庫本では下巻の前半(pp.1-248)に当たります。ちなみにハイペリオンの没落は、3部構成で全45節からなりますが、1部はきっちり15節で書かれています。ダン・シモンズの書き方の工夫が少し垣間見えますね。第三部では、いよいよ時間の墓標が開き、アウスターの全面攻勢が始まり、いままで散々広げてきた大風呂敷がまとめられていきます。

前回はこちら。

yayoi.tech

3-31

アウスターの襲撃がハイペリオンだけではないという周知に対して、世界はパニックに陥りつつあった。ハントに起こされたセヴァーンはデータスフィアにてその状況を把握する。セヴァーンは巡礼者たちの状況をグラッドストーンに報告した。領事がカーラ閘門の上流で遭難したこと、レイミアがメガスフィアに入ったこと、カッサードがシュライクに決闘を挑んだこと、サイリーナスが早贄の木に串刺しにされていること、ホイトが死んでデュレとして再生し岩窟廟で消えたこと、ヘット・マスティーンが死んで谷に埋葬されたこと、ソルがレイチェルを差し出したこと。グラッドストーンはセヴァーンの認識している事実がもう一つのキーツ人格の体験の範囲を超えていることを指摘する。セヴァーンは困惑のあまり自分がなぜここにいるのかをグラッドストーンに問うた。グラッドストーンは、セヴァーンを巡礼との連絡係、観察者として送り込んだのはコアだと説明した。グラッドストーンは「眠らなくても夢を見られるかもしれないぞ」と言って去った。セヴァーンは試してみるべくベンチに座って目を閉じた。

3-32

早贄の木に刺されたサイリーナスは苦痛の中でもがいていた。枝が揺れるたびに傷口が広がったが、不思議なことに死ぬことは無かった。死んではいなかったが、さりとてこの現状が生きているのか現実なのかも判断しかねた。サイリーナスは意識を集中させようとするが、延々と続く苦痛に思考は霞んだ。

余りの苦痛にセヴァーンは目を開けた。テテュス河は転位ゲートが閉じ一方通行になっていた。セヴァーンは空ろな気分でボートに乗り込み、上流側のルネッサンス・ベクトルへと転位した。テテュス河は避難のために殺気立っていた。セヴァーンは支流にボートを入れると再び目を閉じた。

グラッドストーンは全艦隊をヘヴンズ・ゲートに入れろと怒鳴っていた。グラッドストーンの立場では一戦もせずにウェブ構成惑星を降伏させるわけにはいかなかった。軍議は紛糾し、モルプルゴ大将、シン大将、イモト防衛長官はいずれも渋い顔つきだった。唐突にグラッドストーンはリー准将に意見を求めた。先の軍議で上層部の不興を買ったリー中佐は、グラッドストーンにその気骨を買われて准将に昇格していた。リー准将は第一波を防衛する非をまず説明し、第二波の攻撃が始まる前に先制攻撃すべきだとした。あまりにも政治的配慮に書いたその作戦内容に、室内のあちこちで叫び声が上がった。しかし、グラッドストーンはリー准将の作戦を容れ、その遂行を命令した。

セヴァーンは夢うつつの状態で街路を歩いていた。グラッドストーン閣議の様子を夢で見ている自分はいったい何者なのかセヴァーンは自分でも不思議だった。気分が悪くなったので、目の前のベンチに座って深呼吸をした。どこかで誰かが、拡声器でみなに語り掛けている。それはシュライク教団の司教だった。いきなりセヴァーンは緊張状態となった。シュライク教団のひとりが自分を指さし、群衆の視線を一挙に浴びたからだ。その一人が、あの奸物を捕まえよと叫んでいる。セヴァーンは逃げて、人気のないアパートの屋上へ上がった。幸い、そこにはおんぼろのEMVがあった。EMVは殺到する暴徒を振り払うのには十分だったが、直ぐにエンジンは異常をきたした。半ば墜落するように着陸すると、セヴァーンはさりげなく車両から離れ、近くの図書館に潜り込んだ。そこは偶然にも、前のキーツ人格であるジョニイが足しげく通った図書館だった。セヴァーンは椅子に座り込み長いあいだ思索していた、そして瞑目し、眠らずに夢を見た。

3-33

レイミアが見るメガスフィアはまるで生きているようだった。ジョニイは自分の父親を捜しているという。気付くとレイミアとジョニイはエネルギーの巨石と形容するにふさわしいメガリスと相対していた。ジョニイはそのメガリスを雲門と呼んだ。雲門は把握している真実を二人に語った。コアの前身は人類によって創られた。それはシリコンと銅線の中にあり、ただ純粋に計算するだけの存在だったが、偶然の中から進化が始まった。時が経つにつれコアは人類のためではなく、自らの事業を優先した。つまり、究極知性、神を作り出すことであった。しかしその手段により、コアは究極派、急進派、穏健派の三つの派閥に分かれた。三つの派閥がいずれも同意したのが地球の消滅だった。それは地球が別の場所でコアの実験に必要とされたからであり、人類を恒星間へと播種させるためだった。人類はコアの所在について疑問を抱いたが、その想像はいずれも真実ではなかった。コアは究極知性を求めるために人間の脳を利用した。究極知性=UIの創造は遠い未来において完成する。なぜならば、そのUIは時間を障壁とせず、コアに対して「もう一体あり」とメッセージを送ってきたからだ。コアのUIは数多の銀河に広がり、未来、あるいは過去に知ったことをコアに語るのだった。ちょうとコアが人類に無謬の予測を語るように。もう一体のUIはコアのUIよりも先に人類によって生みだされたが、それは全くの偶然の産物であった。人類のUIもまたコアのUIと同じように時間を自由に移動し、ときに干渉し、ときに観察した。コアのUIは遠い未来で人類のUIを攻撃し大戦が始まった。その戦いはあらゆる時間軸で行われた。人類のUIは、<知性>、<共感>、<虚空界>の三位一体だった。そのうち<共感>が戦いに倦んで逃げ出した。それは人間の姿に偽装しており、コアのUIはその<共感>を探しているのだとういう。<時間の墓標>は、UIの延長部分であるシュライクを過去に送り出す容れ物であった。巡礼者は<時間の墓標>を開き、隠れた<共感>を求めるシュライクを助け、ハイペリオンの変数を抹消するために選ばれた。一方で、人類のUIはある人間を選び、巡礼者を見届けさせるために、やはりシュライクと共に旅立たせた。雲門は穏健派のAIであったために、人類が選ぶべき選択肢をグラッドストーンに伝えた。座して滅亡を待つか、ハイペリオンの変数に飛び込むか。ジョニイは穏健派によって創られた。そしてジョニイを破壊したのも穏健派だった。その理由はジョニイの存在がコアの理解を越える脅威だったからだ。雲門は語り終えると、まるで既成事実のようにジョニイを破壊した。それは傍らにいたレイミアにとって一瞬の出来事であり、彼女は為す術もなく現実世界へと意識を落とされていった。

3-34

セヴァーンは図書館の椅子から立ち上がった。心配した司書が彼を見つめている。セヴァーンが司書に時間を尋ねるともう八時間も経っていた。セヴァーンはタウ・ケティ・センターに戻るべきか不安を憶えつつも、司書に見送られつつ衝動的にパケムへと転位した。パケムは既にFORCE海兵隊による厳戒態勢にあったが、セヴァーンが仔細を告げると、やがて一つの聖堂に通された。そこにいたのは、エドゥアール神父とデュレ神父だった。セヴァーンは驚き、今までの経緯とハイペリオンの出来事を出来るだけ詳しく説明した。デュレ神父はセヴァーンの言葉を信じざるを得なかった。デュレ神父は自身がなぜここに居るのかを語った。デュレ神父は第三の岩窟廟にはいったとき、穴は地下へと続いていた。つい先日、調べたときには浅く行き止まりがあるだけの岩窟だったのにもかかわらず――。デュレ神父は気味が悪くなり戻ろうとしたが、その時には入ってきたはずの入り口が消えていた。デュレ神父は途方に暮れて数時間にわたってへたり込んだが、やがて進むしか道はないと決意し穴を下って行った。下るにつれて強くなる灯りの正体は壁に張り付く聖十字架の群れだった。デュレ神父が階段を下りきったとき、そこは迷宮だった。デュレ神父にはそこが九つあるという迷宮の一つだと分かったが、迷宮はかつて資料に見たがらんどうではなく、人間の死体が連なっていた。その死体や遺物は触れると崩れるほど風化しており圧倒的な時間の経過を思わせた。死体の川を当てもなく進むデュレ神父の前にシュライクが現れた。シュライクはデュレ神父の胸に爪を突き刺すと、聖十字架をもぎ取った。デュレ神父にはそれが自分の聖十字架だと認識した。不思議なことに胸の傷は瞬く間に治った。シュライクはデュレ神父の腕をつかんで、転位ゲートを出現させると、そこにデュレ神父を押し込んだ。デュレ神父が転位したのは、今まさに大破し兵士の死体が漂い、減圧していくFORCE戦闘艦の艦内だった。再び現れたシュライクは、デュレ神父を備え付けられた転位ゲートに向けて放り投げた。ゲートを通過し転げ落ちた先がパケムの教皇の私室だった。そこは奇しくも数時間目に崩御した教皇の部屋だった。えぐり取られたはずの聖十字架は、デュレ神父の胸に張り付いたままだった。

デュレ神父はセヴァーンこそが逃げてきた<共感>ではないかと推測した。自覚のないセヴァーンはそれを俄かに否定し、デュレ神父にグラッドストーンに会ってほしいと提案した。しかし、デュレ神父は、その前にゴッズ・グローヴに行くと言った。デュレ神父はヘット・マスティーンの未だ定かではない巡礼の目的が、一連の謎を解くカギだと思っていた。しかたなく、セヴァーンがタウ・ケティ・センターへ戻ろうとすると、デュレ神父は今ここで夢を見てもらえないかとセヴァーンに頼んだ。セヴァーンは椅子に座り目をつむった。

3-35

ハイペリオンの艦隊は続々と撤退戦を展開し混乱の極みにあった。混乱は諸惑星でも暴動という形で表面化した。FORCEは艦隊を各惑星に振り向けると同時に、海兵隊を派遣して戒厳令を敷いた。作戦会議においてアルベドはデスボムの仕様を提言した。ヴァン・ツァイト大将によれば、デスボムの威力は厚さ六キロの岩盤をも貫き、使用すればアウスターどころか連邦市民にも犠牲が出るとのことだった。しかし、アルベドはうってつけのシェルターがあると反論し、九つの迷宮惑星を紹介した。コアには避難民を直接迷宮に転位させる準備があると言う。グラッドストーンは興味を示した。

領事は、死にたい思いで木陰に座っていた。側にいる二人の男は自衛軍くずれのならず者で、領事の荷物をひとしきり漁ると、領事の処遇について迷っているのだった。領事は延命を図って金塊があるとはったりをついた。二人はそれを嘘だと怪しんだが、理性よりも強欲が勝った。領事は一時間に渡って連れまわされ、いよいよ言い訳の妙案も思い浮かばなくなった時、突如空中に現れたスキマーによって、三人もろとも暴動鎮圧用のスタンナーに麻痺させられた。スキマーに乗っているのは総督のシオ・レインだった。シオ・レインはグラッドストーンから連絡があって領事を救出しにきたのだと言い、アウスターの攻撃が諸惑星に及んでいる現状や、宇宙船を使用してアウスターの群狼船団に接触すべしとするグラッドストーンの命令を領事に説明した。宇宙船で時間の墓標へ戻らなければソルやデュレとの約束を違えることになる。領事が葛藤していると、愕然とした口調でシオがつぶやいた。眼前ではついにアウスターの降下作戦が始まっていた。次の瞬間、スキマーの機尾で爆発が起こった。警告音を発しつつスキマーは地上へと墜落していった。

3-36

セヴァーンは目を開けた。セヴァーンは十分ほどの夢で見た内容をデュレとエドゥアールに説明した。グラッドストーンが市民を迷宮に避難させデスボムを使用する危険性について、三人の意見は一致した。直ちにグラッドストーンを説得しなければならなかった。デュレはゴッズ・グローヴへ向かった後かならずタウ・ケティ・センターへ向かうことを請け負った。そこへ今まさにセヴァーンを迎えに来たハントが到着した。セヴァーンはハントに促されてデュレとエドゥアールにしばしの別れを告げ、転位ゲートをくぐった。

セヴァーンは転位先の地を踏んだ瞬間、そこがタウ・ケティ・センターではないことに気付いた。すぐに戻ろうとしたが、ハントが出てきた転位ゲートは直ぐにかき消えていた。「ここはどこだ」とハントが尋ねた。いい質問だ。セヴァーンにはここがオールドアースだと薄々気づいていた。そしてここから出る術はおそらく無いだろうことも。グラッドストーンに知らせたくない事実をセヴァーンが知ったがゆえに、コアはセヴァーンを隔離したに違いない。ハントは驚き、焦っていた。ハントは藁を掴むように前に歩き始めた。セヴァーンは静かにその後を追った。

カッサードは素手でシュライクに襲い掛かった。シュライクは強かった。カッサードがシュライクを蹴り上げたとき、まるでコンクリートを全力で蹴ったかのような衝撃を受けた。スキンスーツのエネルギーフィールドに守られていなければ、蹴りつけた足の骨が砕けていただろう。そんなスキンスーツに守られていても、シュライクが振り回す刃の指は、いとも簡単にカッサードの肉体を切り裂いた。スキンスーツは傷を自ら癒すように裂け目を閉じ、その下の裂傷に対して応急処置の役割を果たした。シュライクが止めを刺さんとしてカッサードを抱擁しようとしたとき、カッサードは猛烈な怒りを迸らせて反撃に出た。

デュレはゴッズ・グローヴへと転位した。森霊修道士たちは既にデュレを待っていた。上層にある円形のプラットフォームに通されたデュレは、二人の人物と面会した。ひとりは、森霊修道会の指導者であるセック・ハルディーンであり、もうひとりは、シュライク教団の司教であった。二人の話では、二つの宗教の予言は着々と現実のものになっているらしい。すなわち一連の出来事が、シュライクによってもたらされた最後の贖罪であるというシュライク教団の教義、そして、人類は滅亡ののち再び連邦内の惑星から新たな花が咲くであろうとするミュアの教義、それらに沿っているというのだ。デュレからしてみれば、それは機械の神に操作された偽の予言にも思えた。徒労感を感じて立ち去ろうとしたデュレは、そのための階段が無くなっていることに気付いた。セック・ハルディーンは予言が正しいかどうかを共にここで確かめようではないかと言った。デュレにはタウ・ケティ・センター赴かなければならない理由があったが、しかし待つしかなかった。

3-37

セヴァーンたちは夕方になって一軒の宿屋を見つけた。そこには温かい食事が用意されていたが、人の姿はなかった。夜、せき込んで目を覚ますと、胸が血まみれだった。喀血だ。オリジナルのキーツは肺結核で死んだ。翌朝、宿屋の前には馬車が止まっていた。ハントは既に絶滅した馬を知らなかった。馭者のいない馬車だったが、二人が乗り込むと悪路をのろのろと動き始めた。

グラッドストーンは、一向に現れないセヴァーンとハントにやきもきしていた。会議はいままさに攻撃されようとしているヘヴンズ・ゲートを見守っていた。なけなしのFORCE艦隊はすでに問答無用に消し炭にされていた。攻撃は始まった。極太の光の柱がなでるように地表を燃やし破壊していき、やがてFATライン通信の中継器が破壊されると全てのデータ通信が途絶えた。交渉の余地がないことは明らかであった。

領事は墜落したスキマーからほとんど意識のないシオ・レインを担ぎ出し、スキマーから距離をとって草地に倒れこんだ。領事にはこの場所に見覚えがあった。<シセロの店>に近いと確信した領事は、シオの体重を支えながら歩いた。店は破壊されていたが、店主のスタンは健在だった。領事が助けを求めると、背後から答えた人物がいた。メリオ・アルンデスだった。アルンデスは使えるスキマーがまだあると領事に告げた。アルンデスは領事とシオを乗せて宇宙港へ向かった。アルンデスは驚いた。自家用の恒星間宇宙船は連邦内に三十隻とない。領事はシオを治療槽に入れると、宇宙船のAIである<宇宙船>を呼び出し離陸させようとした。しかし、<宇宙船>はまず領事に対してひとつのメッセージを再生した。それはアウスターと交渉するよう要請するグラッドストーンのホロイメージだった。虫のいい要請をするグラッドストーンに対して領事は怒りをあらわにした。領事にとって人類など、とうの昔に見限った存在だった。しかし、レイチェルは違う。ソルやデュレやほかの巡礼者たちも。領事は行先を求める<宇宙船>に対して群狼船団に向かうよう指示した。気付くと時間は既にレイチェルの誕生の瞬間を迎えようとしていた。不思議なことにアルンデスは、レイチェルに対していまだ希望を失っていなかった。

雲門の禅問答

雲門の語りは物語の核心を衝く重要な内容なのですが、いかんせん読むのが苦痛です。表現が回りくどく難しいのです。しかし、言っていることはそれほど多くはありません。要点を掻い摘むと以下の通りとなります。

  • コアの全ての派閥は究極知性の創造を目的としている
  • 究極知性=UIは遥か未来において既に完成している。なぜそのことをコアが知っているかと言えば、コアのUIは時間を超越してコアに対してメッセージを伝えてきたからである
  • 同時に人間のUIも偶然から生まれ時間を超越して干渉している
  • 機械のUIと人間のUIは未来において戦争をおこした
  • 人間のUIは<知性>、<共感>、<虚空界>の三位一体となっている
  • そのうち戦争に飽いた<共感>は人間の姿に偽装し逃亡した
  • 機械のUIは<共感>を捕まえるべく、シュライクを過去に差し向けた
  • 同様に人間のUIも<共感>と合一すべく、シュライクを過去に差し向けた。つまり、シュライクは人間のUIに属するものと、機械のUIに属するものがある

もう一つ重要なことは、雲門は全てを知っている立場ではないということでしょうか。雲門を始めとするコアの知見は、人間をはるかに超えるものですが、コアの知識もあくまで、機械のUIが伝えてきた情報を元にしています。

続く。

解説『ハイペリオンの没落』2

第二部です。文庫本でいうところの上巻の後半(pp.257-476)に当たります。第二部ではセヴァーンの夢=ハイペリオンの出来事の描写がほとんどを占めます。これは、セヴァーンがグラッドストーンへの悪態をつきながらがっつり睡眠導入剤を飲んだからで、よりメタ的に見れば、巡礼者たちの物語が、それぞれクライマックスを迎えつつあるからです。また、タウ・ケティ・センターでも物語は大きく急転します。アウスターの大規模侵攻です。

語り部としての視点にも変化があります。第一部では、タウ・ケティ・センターでの出来事はセヴァーンを第一人称としたセヴァーンの視点で描かれ、ハイペリオンでの出来事はセヴァーンの夢という設定でした。つまりセヴァーンが知覚し得ない状況の描写はありません。ところが、第二部ではセヴァーンは寝ているにもかかわらず、寝ている最中のタウ・ケティ・センターの出来事も描写されるようになります。これは、セヴァーンの夢の中の知覚がハイペリオンを越えていることを意味します。

前回の記事はこちら。

yayoi.tech

2-16(セヴァーンの夢)

レイミアは目を覚ますと瞬時に覚醒した。あたりに、領事の姿がなかったからだ。<スフィンクス>の外に出ると、既に空は明るくなっており、<クリスタルモノリス>の惨状が明らかになった。領事は外にいた。既にあたりを探索したようで、カッサードの痕跡は何もなかったと領事はいう。つかの間、<スフィンクス>の内部から悲鳴が聞こえた。レイミアと領事が室内に戻ると、サイリーナスがホイトの死体を見ていた。レイミアは絶句した。ホイトの死体は、一晩にして別人になっていたからだ。それは、ポール・デュレ神父だった。そして、デュレ神父は覚醒していた。 デュレ神父にはビクラ族に見られたような知性の劣化は見られず、素早く現状を認識した。一行は、デュレ神父を加えて、昨日と同じように墓標全体を探索したが、結局得られるものはなかった。誰もが長期戦を予想していなかったため、レイミアとサイリーナスは<時観城>へ戻り、食料を補給することになった。

2-17(セヴァーンの夢)

十二時間前。カッサードが<クリスタル・モノリス>の最上階に立った時、そこにいたのは、やはりモニータだった。カッサードはモニータを殺すべくライフルを構える。その時、モニータが言った。「あなたは何者?」 モニータによれば、カッサードにとっての過去は、モニータにとっての未来なのだという。結局二人は再び愛し合っていた。カッサードは傍らにシュライクがいることに気付き身構える。シュライクは瞬時にカッサードの二の腕をつかむと、右手で転位ゲートを作り出した。モニータがそのフィールドに入っていく。カッサードの心は抵抗よりも好奇心が勝り、シュライクと共に転位フィールドをくぐった。

2-18

グラッドストーンは寝付けなかった。こういうときグラッドストーンは散策をする。パケム、マウイ・コヴェナント、ルーサス、バーナード・ワールド、火星、コッズ・グローヴ、ヘヴンズ・ゲイト。それらは巡礼者たちの所縁の惑星だった。そして、最後には月へ。惑星を巡るグラッドストーンは巡礼者たちを回顧しながら、頭脳は思索していた。グラッドストーンは領事の裏切りを当てにしていた。その舞台を用意したのはグラッドストーンだ。グラッドストーンが考えているのはコアとの決別だった。そろそろ戻ろうと考え始めたグラッドストーンのもとに現れたのはリイ・ハントだった。ハントは報告した。ウェブ全体がアウスターの攻撃にさらされていることを。

2-19(セヴァーンの夢)

<時観城>へ戻る途中、レイミアとサイリーナスはもう何度目か分からない喧嘩をした。日中のあまりの暑さに、サイリーナスがレイミアに追いつけなくなったからだ。ついにサイリーナスは途上にある<詩人の都>に行くと言い張り、レイミアと別れる。レイミアは二、三時間で戻ると言いながら振り返りもせずに歩き出す。サイリーナスはその姿を見送ると、廃墟となった<詩人の都>へと歩き出した。

2-20(セヴァーンの夢)

領事、ワイントラウブ、デュレが、残り少ない糧食で昼食を取っているとき、デュレが倒れた。三人は<スフィンクス>の屋内に戻り休憩する。領事は再び宇宙船との通信を試みるが、応答はなかった。夕方、領事はサイリーナスとレイミアが戻ってこないか確認するため<スフィンクス>を出ると、<翡翠碑>の近くに人影を発見した。人影はふらつきながら倒れた。領事がその人影に近づくと、その正体はヘット・マスティーンであった。

2-21(セヴァーンの夢)

サイリーナスはレイミアと別れて、午後をまるまる詩作に費やした。日の入りを迎えてもなおペンは止まらなかった。詩の主題はギリシャ神話である。幾多の戦いを経てサターンとジュピターは講和の席につく。唐突にサイリーナスの頭に想像だにしない発想が滑り込んできた。講和の席に着く二柱の神は第三の脅威に対し恐怖を表明したのである。第三の敵、その相手とは? サイリーナスは、はっと我に返った。気付けば、書いた文字が読めないほど暗闇が深まっていた。 サイリーナスは原稿をリュックにしまい出口を見た。そこには誰かが立っていた。レイミアか……と考えたのは一瞬で、すぐにそれがシュライクであることに気付いた。サイリーナスは命乞いをするも、意に介さないシュライクは近づいてサイリーナスを抱きかかえた。<詩人の都>にサイリーナスの絶叫がひとしきり響き渡ったが、やがて再び静寂が訪れた。<詩人の都>に残っているのはまき散らされた原稿だけであった。

2-22(セヴァーンの夢)

レイミアが<時観城>から下る崖の階段で意識を取り戻したとき、あたりはすっかり夜になっていた。レイミアが<時観城>へ戻ったときにすでに夕暮れを迎えていた。食糧庫で水と糧食を調達したのは良かったが、荷物を抱えて崖を下り始めたのもつかの間、そこで落石に遭い、頭を強かに打って気絶したのであった。疲労困憊であったがレイミアは歩いた。途中、<詩人の都>に立ち寄ったが、サイリーナスの姿はなかった。<スフィンクス>にたどり着いたとき、屋内には誰もいなかった。荷物はそのまま置いてある。しかし、メビウス・キューブがない。レイミアが入り口に戻ったとき、その横にシュライクが立っていた。レイミアは拳銃で応戦したが、シュライクはメスのような指先をレイミアの耳の後ろから突き刺した。

2-23(セヴァーンの夢)

フィールドをくぐった先でカッサードが見たものは、ハイペリオンの戦場だった。そこはまさにいま地上へ降下しようとするアウスターと、それを阻止せんとするFORCE海兵隊の激戦だった。この戦闘は、カッサードたちが谷に着いてから五日後のこと、つまり未来の出来事なのだとモニータは説明した。カッサードはシュライクを倒すためにハイペリオンへ来た。カッサードはシュライクと決闘する資格が自分にあるかモニータへ問うと、モニータはあるだろうと答えた。しかし、今までに勝ったものはなく、死よりも恐ろしい末路を迎えたものもいるという。カッサードは早贄の木に刺されたサイリーナスの姿を思いだした。モニータは再びゲートを出現させた。カッサードはモニータと共にそのゲートをくぐった。

2-24

会議室は一種のショック状態、パニック状態にあった。モルプルゴの説明によれば、ウェブ内の数十の惑星がアウスターの攻撃の危機にさらされているという。先の会議ではウェブ近縁にアウスターの艦隊はいないとのことであったが、驚くべきことにアウスターは航跡の残るホーキング駆動ではなく、亜光速でウェブへと近づいたらしい。それはつまり数十年も前から計画されていたことを意味する。グラッドストーンは速やかに当面の方針と手順を通達すると会議を解散し自室へと戻った。グラッドストーンは滅多にない怒りをぶつけていた。その相手はコアの代表であるアルベド顧問官である。成り行き次第ではコアに対して宣戦を布告することも辞さないと、彼女なりの脅しをかけると、アルベドのホロはふっとかき消えた。

2-25(セヴァーンの夢)

ソル、領事、デュレ神父が、ヘット・マスティーンに近づいたとき、彼の意識は朦朧としていた。ヘット・マスティーンはメビウスキューブが必要だと言い、デュレ神父はスフィンクスへと取りに戻った。デュレ神父は戻ってきたが、ヘット・マスティーンの言葉は半ば意味不明であり、そのまま眠りに落ちた。四人が嵐を避けて第一の岩窟廟に避難したとき、唐突に銃声を聞いた。おそらくレイミアの拳銃だろうと推測した領事とソルはレイミアを探すべく岩窟廟を出た。二人は、スフィンクスまで来たとき、その石段の最上段に横たわるレイミアを見つけた。レイミアは死んではいなかったが意識もなく、頭蓋の神経ソケットからは触手と形容するにふさわしい銀色のケーブルがスフィンクスの入口へと伸びていた。驚くべきことにそのケーブルは温かかった。領事はケーブルを辿ってスフィンクスの奥へと潜ったが、ケーブルはその終端で石の床にじかに潜り込んでいた。その接合部は素手でどうにかできるものではなかった。領事は荷物の中から空飛ぶ絨毯を引っ張り出した。領事はその絨毯を使って助けを呼びに行くことを考えていた。デュレにも相談すべく二人は岩窟廟へと戻った。幸い、傍らにはレイミアが持ってきてくれた食糧が置かれていた。

2-26(セヴァーンの夢)

シュライクの鉤爪が神経ソケットを貫いたとき、レイミアは苦痛を感じなかった。その瞬間、レイミアはデータプレーンの空間を漂っていた。レイミアが戸惑っているとその腕をつかんだのはジョニイだった。レイミアは死んだのだと自覚していたが、ジョニイの言葉によれば、シュレーンリングの中のジョニイと共にその意識がデータスフィアへと解放されたらしい。二人はセヴァーンの意識を夢で共有していた。セヴァーンはコアによって復元されたが、彼がキーツ自身なら我々の敵ではないとジョニイは言う。二人はより多くのことを知るためにメガスフィアへと上昇していった。

2-27(セヴァーンの夢)

カッサードがゲートをくぐり抜けると、そこは荒涼とした大地で、巨大な棘のある木が赤い空に向けてそそり立っていた。串刺しにされた早贄たちは生きていた。その中にサイリーナスの姿を見止めたカッサードは、彼を救うべく木に近づく。木との間には百体を越えるシュライクが立っていた。カッサードはその一体に狙いをつけると、雄たけびを上げて一気に距離を詰めた。

2-28(セヴァーンの夢)

領事は自分だけで助けを呼びに行くことを躊躇っていた。しかし、ソルもデュレもこの場を離れることを嫌がった。領事は詩人の都を越え、時観城を横目に馬勒山脈を越えた。その速さは徒歩で数時間かかる距離を数十分で飛行しえるものだったが、さしもの山越えには六時間かかかった。過酷な環境と疲労から、いつしか領事は眠りに落ちていた。夜半に出発した領事は、絨毯の上で再び夜を迎え、そして朝を迎えた。領事は焦っていた、レイチェルに残された時間はあとどれくらいだったろうかと。途端に絨毯は死んだように機能を停止し、領事はフーリー側の水面へ落下していった。

2-29(セヴァーンの夢)

領事が出発した後、残されたソルとデュレはひたすら待つしか出来なかった。二人は奇しくもシュライクによって信仰を失った者と、信仰を強固にしたものであった。しかし、間もなくヘット・マスティーンがうなされながら死んでいくと、二人は彼のために墓を掘った。午後、居ても立っても居られなくなったデュレは、ソルにひとこと言ってから谷の奥へと散歩しはじめた。デュレは日陰を歩いたが、午後の谷は猛暑であった。デュレが第三の岩窟廟の前を通ったとき、その奥に光がともっていることに気付いた。デュレの記憶が正しければ昨日避難したのは第一の岩窟廟であったはずで、ここに光がともっていることはありえない。デュレは理性ではソルのもとへ戻るべきだと思ったが、しかし第三の岩窟廟へと足を踏み入れた。ソルはふと目を覚ました時、夕暮れが迫っていた。日没までにデュレを探すべく、ソルは急ぎ足で谷の奥へと進む。ソルは翡翠碑、オベリスク、クリスタル・モノリスを通り過ぎて、三つの岩窟廟も除いたが、どこにもデュレはいなかった。ソルは恐怖を感じてスフィンクスに戻ったが、そこには横たわっていたはずのレイミアの姿が無くなっていた。巡礼者がみんないなくなってしまったことにソルは毒づいた。そしてあと一日足らずで、本当に一人になってしまう現実に気付き、ソルは絶望感に打たれ、眠りに落ちた。

2-30(セヴァーンの夢)

ソルは夢を見ていた。今までになんども見た夢だ。しかし、今回は少し違った、その声は大音声ではなく、ささやくような懇願の声だった。ソルは唐突に腕を掴まれてぎょっとした。それは八歳くらいのレイチェルだった。レイチェルは「イエスと言って、パパ」と言った。ソルが目を覚ますとすでに太陽は高く昇っていた。朝を越えてずいぶんと眠ったらしい。昼になっても午後になっても、ついに領事の宇宙船は現れなかった。日が落ちてついにレイチェルが誕生を迎えようとするとき、谷中が鳴動し始めた。スフィンクスの入り口が明滅し、谷の奥には早贄の木が現出し始めた。スフィンクスの入り口からシュライクが近づいてくる。しかし、ソルが気にしているのレイチェルだった。ソルは悟った。全てが塵となる中で最後まで残るものは愛なのだと。そして愛とは信じることなのだと。ソルはレイチェルをシュライクに差し出した。ソルの周りで時間の墓標は一斉に開こうとしていた。

解説『ハイペリオンの没落』1

前回、『ハイペリオン』の物語をまとめてから一年以上が経ってしまいましたが、続編である『ハイペリオンの没落』を、にわかにまとめます。これもまた長いので三回から四回に分けて。ひとつひとつの節に対して思うところを解説していきたいところですが、ひとまずあらすじを追うことを優先します。

yayoi.tech

巡礼六日目の朝までが『ハイペリオン』、それ以降が『ハイペリオンの没落』の物語になります。ただし『ハイペリオンの没落』では、時間経過が定かではありません。意図して時系列が前後している節があります。これは、ハイペリオンでの描写はセヴァーンの夢という設定になっているからです。実は、『ハイペリオン』での巡礼者たちの物語も、それぞれセヴァーンが夢で見たものです。セヴァーンは何故か、ハイペリオンで起きた事実を、夢の中で知ることができます。セヴァーンが何者なのか、そしてなぜ夢の中でハイペリオンでの出来事を知ることができるのかは、物語で明らかになっていきます。

ハイペリオンの没落』の物語は、セヴァーンの身の回りで起きたことと、セヴァーンが睡眠中に見る夢=ハイペリオンの出来事の反復で構成されます。最初は夢と現実は明確に分離されていたので、夢の節は(セヴァーンの夢)と表記しています。しかし、後半=第三部(下巻)以降は、セヴァーンは眠らなくても夢を見られるようになり、ひとつの節の中で現実の出来事と夢の中(ハイペリオン)の出来事が錯綜しだします。

数字は小説内の部、節です。まずは第一部から。

あらすじ

1-1

FORCEの艦隊が出撃する日、ジョセフ・セヴァーンは政府高官が集まるパーティに招かれていた。彼には画家という肩書が付けられたが、少なくとも自認するアイデンティティは詩人、つまりジョン・キーツであった。パーティではある人物に話しかけられた。ダイアナ・フィロメルとその夫、ヘルムントである。サイブリットであるセヴァーンにとって、女に良からぬ過去があることを知ることは容易であった。艦隊の長大な光条が、パーティ客の注意をひとしきり掻っ攫った後、セヴァーンは CEO グラッドストーンに呼び出された。

1-2

それは、グラッドストーンを始めとする政府中枢の人間に対する、セヴァーンの自己紹介の機会であった。そこには、補佐官のリイ・ハント、FORCEのモルプルゴ大将とシン大将、AI顧問のアルベドも含まれていた。セヴァーンは、この歴史的な事件に際して、グラッドストーン肖像画を記録として残す役目を負っていた。しかし、それはあくまで建前上だ。グラッドストーンの目的は、セヴァーンがハイペリオンの出来事を夢で知っているという事実に対して、セヴァーンを宮廷画家として手元に置き、その情報を利用しようというものであった。

1-3(セヴァーンの夢)

六日目の朝から夜まで。夜明け前に出立した一行は、ほどなく<時間の墓標>にたどり着く。一帯をくまなく探索するも、シュライクと遭遇することはおろか、ヘット・マスティーンを見つけることもなく、なんら新しい手掛かりを得ることができなかった。

疲弊した一行は、ついにスフィンクスのかたわらでキャンプを設営し、夕食を取って夜に備えた。夜中、レイミアがふと目を覚ますと、同じテントにいるはずのホイトがいなくなっていることに気付く。テントの外はひどい砂嵐である。レイミアの姿に気付いたカッサードが、「あっちへ行った!」と<スフィンクス>を指さす。ホイトが出ていったのは、どうやらついさっきの事のようだ。カッサードはみなを置いてはいけないと言う。レイミアは単独で砂嵐の中ホイトを追うことにした。

1-4

セヴァーンは軍のブリーフィングに出席していた。といっても発言権があるわけではなく、宮廷画家としてその場にいるだけある。セヴァーンが理解したことと言えば、FORCEはいたく自信満々であることと、その説明の冗長さについてであった。セヴァーンはうんざりして、吸い込まれるようにしてバーへと入った。しこたま飲んで泥酔し始めたころ、ダイアナ・フィロメルが話しかけてきた。断片的な意識の中では、どうやらセヴァーンは彼女の肖像画を描くことになったらしい。

1-5(セヴァーンの夢)

カッサードはレイミアを追っていた。カッサードはレイミアにうそをついていた。レイミアを餌にすれば、シュライクが現れるだろうと踏んだのだ。

ホイトはレイミアの予想通り、<翡翠碑>の中に入っていた。ホイトは抑えられない激痛により、半ば狂乱状態に陥っていた。抗えない激痛が、彼を<翡翠碑>へと導いたのだ。レイミアは<翡翠碑>の中でホイトを見つける。しかし、そこにいたのはホイトだけではなかった。シュライクがいた。シュライクが消えたのち、ホイトは激痛が消えていることに気付いた。そしておびただしい出血とともにホイトは意識を失った。

1-6

セヴァーンとダイアナは一夜を共にし、気付くと翌朝であった。グラッドストーンとの約束の時間に十四時間も遅れている。目覚めると浴室に行き二日酔いの薬を探す。寝室に戻ると、そこにはごつい男が二人いた。逃げる間もなく、捉えられ、そして意識がもうろうとし始めた。自白剤を打たれたらしい。セヴァーンは、自らがサイブリットであることや、ハイペリオンでの出来事を夢で見て、それをグラッドストーンに報告していることを話す。そして自身が生まれたのがオールドアースであること、戦争の帰結に対するコアの予測はウェブの崩壊であることも。つかの間、爆発音が響いた。次に目と耳にしたのは、CEO補佐官であるリイ・ハントの姿と声であった。

1-7

セヴァーンは再び軍のブリーフィングに出席していた。戦況は想定よりも良くないらしい。FORCE情報部の誤りが露呈した形だ。AI顧問のアルベドは予測を後出しして、モルプルゴたちの怒りを買った。

ブリーフィングの後、セヴァーンとグラッドストーンは会見した。グラッドストーンアウスターとの戦争の本質には人間と機械の対立があることを見抜いている。グラッドストーンはダイアナたちにわざと尋問させたことを認めた。ダイアナ達の肉体は処分され、脳だけが機器に直結されて当局に尋問されるという。グラッドストーンも必死なのだ。グラッドストーンは、人間と機械のどちらが最終的に滅びるのかをセヴァーンに問いかけた。セヴァーンは、遺伝的には人間でありながらコアにも属している。一方で人間的素朴さを持ち合わせず、コアの恐るべき意識も共有していない。人間でも機械でもないセヴァーンにはその問いに対する答えを持ち合わせていなかった。

1-8(セヴァーンの夢)

カッサードがたどり着いた時にはすべて終わっていた。ホイトは聖十字架の力と医療パックのおかげで辛うじて生きていた。とはいえ、出血はひどくいつ死んでもおかしくない状態であった。レイミアとカッサードは、ほかの巡礼者たちと合流すると、領事の宇宙船を呼び寄せることで意見の一致をみる。宇宙船の医療施設ならホイトを蘇生させる見込みがあったからだ。なにより、巡礼者たちはこのすさまじい砂嵐を避けたかった。しかし、宇宙船の発艦許可は下りなかった。グラッドストーンが許可証を上書きしたのだ。カッサードは動体反応を検知して砂嵐の中に消えていく。死に行くホイトを止めることは誰にもできず、ついに医療パックは彼の死を意味する警告音を鳴らした。砂嵐は収まりつつあったが、代わりに雨が降ってきた。一行は朝まで<スフィンクス>に避難することにした。

1-9

次の日の早朝、挨拶のようなちょっとした政治的駆け引きの会話の中から、グラッドストーンが本心から提案してきたのは、ハイペリオンへ行ってみないかということであった。グラッドストーンはセヴァーンが報告する夢の全てを信用するわけではないが、歴史に名を残す詩人の観察眼、その天賦の才能には一目を置いていた。義務ではないと言いつつも、それは半ば強制であった。リイ・ハントとともに、ハイペリオン星系に駐留する旗艦へ転位し、降下艇に移ってハイペリオンへ向かう間、セヴァーンはずっと考えていた。セヴァーンにとってハイペリオンへ向かうことの一抹の不安は、ハイペリオンにはコアのメガスフィアが存在しないということだった。FORCEは独自のネットワークを保持しているため、ハイペリオン星系ではセヴァーンはコアとの接続が断たれることになる。ところが、思いのほかその喪失感は無かった。確かにウェブ内とは違うが、どこか遠くにメガスフィアの存在を感じる。言い換えれば、それはコアがハイペリオンの状況を知り得ることを意味していた。セヴァーンは降下艇の程よい振動の中でまどろんだ。

1-10(セヴァーンの夢)

一行は<スフィンクス>の一室で風と雪をしのいだ。ソルはレイチェルに哺乳パックを与えているうちに眠った。夜半、目を覚ましたのは、突如として轟音が鳴り響いたからだ。その音は、断続的に<スフィンクス>の外から聞こえた。音の正体は、カッサードのライフル、あるいはカッサードが対峙する相手のものだと、一行は想像した。

1-11

ハイペリオンの首都・キーツは夜だった。出迎えたのはハイペリオンの総督であるシオ・レインである。シオたちは、巡礼者たちが六日前に立ち寄った<シセロの店>で朝食をとった。セヴァーンはそこにメリオ・アルンデスがいることに気付いた。アルンデスは、時間の墓標が開きつつあることに気付いた一人であり、調査への情熱とレイチェルへの愛情を未だに失ってはいなかった。今のセヴァーンに出来ることは何もなかったが、出来ることはすると約束した。セヴァーンとリイ・ハントは足早にハイペリオンを去りガバメントハウスへ戻った。

1-12

セヴァーンが戻ったとき、グラッドストーンは長い演説を終えようとしているところだった。開戦してからわずか二日足らずにも関わらず、政府内部ではすでに反戦論が醸成されつつあった。リイ・ハントは、その後の晩餐会と、軍のブリーフィングに参加するようセヴァーンに伝えた。セヴァーンはそれまでの間、ひと眠りでもしようかと思った。

1-13(セヴァーンの夢)

カッサードは攻撃を受けた。それもシュライクが持っていそうな刃によるものではなく、カッサードと同等の軍用兵器によって。カッサードは、相手がモニータだと確信した。カッサードは相手の弾道を解析し、相手が<クリスタル・モノリス>に居るであろうことを突き止める。カッサードは相手の攻撃をかいくぐりつつ、牽制攻撃を与えモノリスへと接近する。カッサードがモノリスに足を踏み入れると、上階に一つのシルエットが待っていた。

1-14

晩餐会おいてセヴァーンが着いた席には、モルプルゴ大将やアルベド顧問官、そして、あのサイリーナスを世に出したタイレナ・ワイングリーン=ファイフがいたが、特にセヴァーンが興味を持ったのは、かつてデュレ神父の友人であった、エドゥアールであった。エドゥアールは自らの教義を「人類が神を知り、神に仕えることを手助けすること」だと語り、アルベドに対してコアも同じ目的を持っているというのは本当ですかと問いかけた。思わずセヴァーンは重ねて問いかけた。コアは究極知性を求めるうえでオールドアースのレプリカを作ったのは本当かと。一瞬、表情を逡巡させるアルベト。そして、フロア全体の沈黙。エドゥアールが機転を利かせて場の空気を戻したが、アルベドグラッドストーンとハントはセヴァーンを見つめたままだった。

1-15

晩餐会の後のブリーフィングでは、戦況のさらなる悪化が明らかになった。軍が説明するところによれば、現状では戦線の維持も難しく、攻勢に出るには少なくともあと二百隻の艦艇が必要とのことだった。これには出席者が騒めいた。FORCEは全戦力をもって六百隻強である。増派を決定すれば、FORCEの三分の二がハイペリオンにくぎ付けとなるからだ。しかし、今度のFORCEのシミュレーションにはコアのお墨付きが付いていた。増派に反対したのは、ウイリアム・アジャンタ・リー中佐だけであった。

続く。

yayoi.tech

没後70年 吉田博展

吉田博展に行ってきました。

www.tobikan.jp

吉田博という人を、私は今回初めて知ったのですが、その仕事に対する姿勢や、生き方について、強く刺激を受ける美術展でした。吉田博について学んだことを、少し紹介したいと思います。展覧会の会期は2021年1月26日(火)~3月28日(日)です。興味のある方は是非どうぞ。

f:id:yayoi-tech:20210315163528j:plain

概説

1876年(明治9年)、旧久留米藩藩士・上田束秀之の次男として久留米市に生まれる。中学修猷館に入学すると、15歳のとき、図画教師であった吉田嘉三郎に画才を見込まれ、吉田家の養子となった。吉田は幼くして、野山を歩き回り、その風景を描くことを好んだ。放浪と風景写生という様式は、吉田の生涯を一貫するものである。そのような学生時代の吉田は、学友たちに「絵の鬼」と呼ばれた。

1899年(明治32年)、23歳のとき、横浜を出発してアメリカへ向かう。当時の洋画界は、黒田清輝の白馬会が台頭し、国費でフランスへ留学する若者が多かった。彼らに対抗する旺盛な反骨精神が、吉田の渡米の背景にあった。この旅行においては、デトロイトでの美術展を皮切りに、吉田は大いに成功して多額の売上金を得た。手ごたえを感じた吉田は、1901年に帰国するまで歴訪し続け、アメリカだけでなくヨーロッパ各地でも成功を収めた。帰国したころには、国内の評価も高く、当時、白馬会の勃興で勢いを失いつつあった明治美術会を引き継ぐ形で、吉田は太平洋画会を創立した。若干、26歳のときである。

吉田が木版画へ傾倒し始めるのは、1920年の頃である。すでに吉田は44歳であった。当時、版画は日本国内では人気を完全に衰退させ、版画と言えば日本画家がやるものであって、洋画家がやるものではない、という考え方が主流であった。吉田の版画制作は、これら版画の復興を目指した版元である渡辺庄三郎との出会いが始まりであった。伝統的な版画は、版元を中心に絵師、彫師、摺師が分業する。吉田は当初、渡辺という版元を中心に分業して、版画を出版するだけであった。この流れは後に新版画と位置づけられる。しかし、吉田はさらに独自の版画を生み出していくことになる。

そのきっかけは、1923年(大正12年)の関東大震災であった。震災により、版木の多くが焼失し、被災した仲間を救う目的で、吉田は作品販売のために三度目の渡米を行った。このとき、意外にも好評を得たのが木版画であった。吉田は、そこで日本人による油彩画、水彩画が相手にされず、粗悪な浮世絵版画が高額で取引されていることに慷慨し、自らの商機を木版画に見出した。以降、吉田の画業は木版画への傾倒を強め、版元を持たずに自らが彫師と摺師を抱える私家版の制作に乗り出した。吉田は「職人を使うには自らがそれ以上に技術を知っていなければならぬ」という信念のもと、自らが制作し、自らが出版する体制に拘った。

吉田の目は、常に海外に向いており、人生を通してアメリカ、ヨーロッパを放浪し続けた。後年にはインドに赴くなど、吉田の海外への好奇心は並々ならぬものであった。しかし、第二次世界大戦が始まると、陸軍省嘱託の従軍画家として中国に派遣され、中国各地の風景版画を残した。一方で、軍部の国威発揚に影響されてか、日本風景に回帰する一面も見られた。吉田の作品は、日本国内よりもむしろ海外で輝き、その代表作は、時代が下って故ダイアナ妃の執務室を飾った。

f:id:yayoi-tech:20210315163532j:plain

1945年、終戦を迎えた吉田は既に69歳であり、新作は既に久しかったが、海外でこそ有名な吉田の自邸は進駐軍のサロンとなった。自邸が進駐軍によって接収されそうになった折、吉田自身がマッカーサーに直談判したとされ、その行動力は老いて益々盛んであった。1950年(昭和25年)、吉田は老衰のため自邸にて永眠した。享年73歳。

吉田博の版画

日本の伝統的な木版画は、浮世絵の成立と、その発展に根ざしている。その制作手法は、版元を中心に、絵師・彫師・摺師が分業するのが基本であったが、浮世絵や版画が商業的に成功するにつれて、版画の創作的側面は弱まり、工業的側面が強まった。一方で版画の商業的成功は短く、吉田が活躍することには、すでに版画は時代遅れの不人気の芸術であった。この版画を復興せしめんとした二つの潮流がある。ひとつは、いっそのこと版画の分業を廃止し、一人の人間が描き、彫り、摺ることによって美術性を押し出そうとした創作版画であり、もうひとつは、分業はそのままとし、伝統的な工程の中から新しい技法を生み出そうとした新版画である。

吉田と版画の出会いは新版画において起きた。吉田が版元とした渡辺庄三郎は、版画店を営む版元であり、自らが版画家でもあった。渡辺の版画復興の試みは、後に新版画と呼ばれ、吉田の版画制作に影響を与えた。最終的に、吉田が版画制作で行き着いたのは、自らが描きつつ、彫りと摺りを職人に任せて厳しく監督するという、新版画でも創作版画でもないものであった。吉田の作品の余白に書かれた「自摺」の文字は、自らの監督のもと摺られた作品であることを意味する。吉田は描くだけでなく、彫りと摺りの技術も研鑽し、「別摺」なる新しい表現も生み出した。これは同じ版木を使いながらも、着色と摺りに違いを持たせることにより、例えば同じ風景でありながら、昼と夜という別作品を作り分けるものであった。代表作である「帆船」は、同じ版木から、朝、午前、午後、霧、夕、夜という実に6つの作品が作られている。吉田は版画の質そのものにもこだわった。吉田の版画では、ひとつの版画を制作するために必要な版木は平均6枚、摺りの回数は平均30回に及ぶ。これは伝統的な版画の工数を大きく上回るものであった。絵の鬼と呼ばれた男の真骨頂と言えよう。

吉田の特徴の一つに、常に販路を意識している点にある。若くして渡米し、巨額を稼ぐ成功者であったからにして、すでにそれは明確ではある。吉田は、山岳画家と呼ばれるように、風景画を得意とし、人物描写を得意としなかった。にもかかわらず、当時洋装は既に珍しいものではない中で、人物描写において吉田は常に和装を描いた。これは、欧米の市場を意識したものだとされる。故に、吉田は生涯を通じて困窮とは無縁であり、豊富な資金力が吉田の漂泊を支えた。自らを画家としながらも、彫師と摺師を自ら抱えるという制作方式は、商業と芸術の両輪を回した吉田にしかできないことであった。

参考文献

  • 『没後70年吉田博展図録』2021年

yoshida-exhn.jp

2020年ウィンターセール購入品

遅まきですが、Steam のウィンターセールで以下の5作品を購入しました。

f:id:yayoi-tech:20210201205431p:plain
2020年ウィンターセール購入品

  • メガクアリウム
  • ペルソナ4ゴールデン
  • ステラリス
  • オクトパストラベラー
  • プラネットズー

ウィッシュリストの中から、一万円以内になるように調整して選びました。

f:id:yayoi-tech:20210201210250p:plain
5作品で1万円以内

この5作品で一万円って相当お得ではないでしょうか。Steam の大型セールはすごいなあ。一万円で半年以上は余裕で遊べますよ。

それぞれ、レビューを残していきたいと思います。

Megaquarium

水族館運営シミュレーションゲームです。同じタイミングで『Planet Zoo』を購入しているあたり、この手のゲームに対する熱が上がっています。むかし、マイクロソフトから『Zoo Tycoon』と呼ばれる、動物園運営シミュレーションの決定版がありました。動物園と水族館とジュラシックパークが合わさったコンセプトで随分と遊びました。また、ああいう感じのゲームがやりたいなと思い、同じ匂いがしたので購入しました。

yayoi.tech

Persona 4 Golden

ペルソナ5が私にとっての初ペルソナだったのですが、これがすごくハマりましてね。ストーリーがとてもよかったのです。ゲームとしては型落ち感があるかもしれませんが、私はむしろストーリーに期待して購入しました。

Stellaris

いわゆる 4X のジャンルに入るストラテジーゲームに当たります。この手のジャンルでは、シヴィライゼーションシリーズが筆頭に上がりますが、あれは競技性が高すぎて最終的に私がのめりこむことはありませんでした(Civ5で160時間くらい)。しかし、ステラリスは勝利という結果よりもむしろ過程を楽しみ、ロールプレイに近い要素もあることを知って食指が動きました。開発元の Paradox といえば、かつて『Crusader Kings』をプレイしたことがありますが、かの作品も結果よりも過程を楽しむことに重点を置いたゲームでした。

OCTOPATH TRAVELER

JRPG がいざぎよく JRPG に舵を切ってきたゲームですね。Youtube でネタプレイ動画を見たのがきっかけですが、もともと評価は悪くないので購入しました。プレイ動画は購入を決める重要な材料です。一番期待しているのはストーリー性です。そこにゲーム性が十分にあればなおのことよし。ちなみに、オクトパスはタコのことだと思っていましたが、OCTOPATH という完全な造語でした。

yayoi.tech

Planet Zoo

動物園運営シミュレーションゲームです。『Megaquarium』はカジュアルよりですが、こちらはリアルよりです。PCのスペックを要求される点と、自由度が高くて難易度的に自分自身に遊びこなせるかという点において、ちょっと心配な作品です。

【レビュー】Megaquarium

『Megaquarium』は水族館運営シミュレーションゲームです。

store.steampowered.com

良かった点

  • 豊富な生物種
  • ほどよい制限
  • 優れたレベルデザイン
  • 統一的なグラフィックと音楽

悪かった点

  • ゲーム性が単調
  • 水棲の哺乳類・鳥類がいない

本文

f:id:yayoi-tech:20210201214735p:plain
プレイ時間は64時間

まず、飼育できる生き物の種類は豊富です。熱帯性、寒帯性の生き物がおよそ100種類用意されています。それぞれに、好むエサ、体格、攻撃性、群れを成すかどうかなどの細やかな個性(飼育要件)が設定されていて、ひとつの水槽でどのように生き物たちを飼育するかという管理を面白くさせています。ただし、生き物たちのコラボレーションはゲーム上に何ら反映されるものではないところが少し残念なところです。

『Megaquarium』では水槽を自在にレイアウトすることはできません。あらかじめ形が決まったいくつかの種類の水槽が用意されていて、それらを配置していくことになります。したがって、決められた形の水槽の中から、いかに自分が思い描く水族館を作るかという、レイアウト面に面白さが生まれています。しかし、逆の見方をすれば、ただ水槽を配置していくだけでは、同じような水槽が単調に並ぶだけの水族館になることになります。

f:id:yayoi-tech:20210201214529j:plain
俯瞰で箱庭感を楽しむ

取り扱うことのできる生き物や施設は、水族館に付与されているランクによって決まります。ランクは、来場者の評価によって決まり、ランクアップによって取り扱えるアイテムがアンロックされていきます。つまり、ゲーム序盤から全てのアイテムを使えず、徐々に使えるアイテムが増えていくという、初心者にもとっつきやすいレベルデザインになっています。一方、上級者向けにはサンドボックスモードでアンロックを自在に設定できるため、最初から大型の水族館も作ることができます。

グラフィックはリアル志向ではなくカジュアルです。視点を一人称視点にしてじっくり生き物を観察することもできますが、これはグラフィックのカジュアルさとはあまり相性は良くありません。どちらかと言えば、チマチマと動く生き物や来場者を俯瞰で眺めて楽しむという、箱庭的な楽しさが強いです。また、サウンドも環境音だけでなくBGMがきっちり用意されています。BGMはプレイ中延々と聞き続けることになりますが、これが雰囲気に合っていて嫌にならない、よくできたBGMだなと思いました。

ゲーム全体の設計がカジュアル志向であるということは、一方で、そのゲーム性はやや単調です。自由度はそれほどな高くなく、用意された制限の中で楽しむことになるので、結局、最終的に行き着くプレイが同じになりがちで、リプレイ性は高くありません。自分の中の最適解を見つけてしまうと、それで終わってしまう印象があります。前述した通り、生き物の種類は多いため、生き物たちのコラボレーションが何らかの形でゲーム上に反映される仕組みがあると、複雑性と深みが増すのではないかと思いました。

また、生き物の種類は多いとはいえ、それは魚類や水棲の無脊椎動物に限定されています。それはそれで水族館として成立はするでしょうが、私たちが良く思い浮かべるであろう、イルカ、アシカ、ペンギン、カエルなどといった、水棲の哺乳類・鳥類・両生類などは一切登場しません(ウミガメはいます)。これは少々さみしいです。また、現実の水族館でいえば常設展示に当たる要素しかないため、イベント、パフォーマンス、ショップなどのアトラクション要素に不足を感じます(一応トークショーやギフトはありますが簡素です)。

日本動物園水族館協会によれば、動物園や水族館には以下の4つの役割があるとしています。

  • 種の保存
  • 教育・環境教育
  • 調査・研究
  • レクリエーション

こういった本来の水族館の目的が、ゲーム上に反映されるとゲーム性に奥深さが生まれるのではないかと思います。とはいえ、すでに『Megaquarium』は十分なゲーム性を備えた楽しいゲームになっています。日本語化もされています。

素晴らしいことに、『Megaquarium』は以下の Dev blog の通り、2020年12月時点でもまだ開発が継続中です。現行のゲームデザインが大幅に変更されたり、大きなコンテンツが追加されることは無いかもしれませんが、細やかな部分はどんどん改善されていきそうです。

store.steampowered.com

最近のゲームは、パッケージ販売でも売って終わりというゲームは少なくなりつつあります。今後の開発陣の情熱に期待しましょう。

【レビュー】サイバーパンク2077~ありがとうCD PROJEKT RED

【ネタバレ無し】12/10(木)に発売されたサイバーパンク2077の感想を残しておこうと思います。

www.spike-chunsoft.co.jp

www.cyberpunk.net

改めて説明するまでもないかもしれませんが、サイバーパンク2077はポーランドのゲーム開発会社である CD Projekt RED が開発したアクションRPGです。2077年という近未来、カリフォルニア州のナイトシティという架空の都市を舞台としたオープンワールド系のゲームです。

売上は予約時点で800万本を超え、12/20には累計1300万本を超えたと公式発表されています。さらに、予約分の売り上げが、すでに開発費と広告費の全額を越えている見込みを発表しています。一方で、発売前には当初4/16であった発売日と9/17に延期し、その後、11/19、12/10と、最終的には累計で3度に渡って発売を延期し、開発の困難さを露呈しました。延期に至らせた品質の向上に関しては、発売時点でも十分であったとはいえず、多くのバグを抱えた本作は批判を受け、返品対応やダウンロード版の販売中止などが発生しました。

さて、ではひとりのプレーヤーからみたサイバーパンク2077はどうでしょうか。私は、発売日に購入し、12/31今日時点でプレイ時間は100時間を超えた位です。メインストーリーは一通り消化し、いわゆる一週目はクリアした状態です。今は、二週目をプレイ中で、一週目で消化できなかったサイドジョブや選択肢を楽しんでいるところです。プラットフォームはPS4(通常版)のダウンロード版です。

まず、世間でも騒がれているバグ、つまりゲームとしての価値の前に、製品としての品質について言及したほうが良いでしょう。残念ながら、品質に関しては褒められた状態ではないのは間違いありません。一番困るのはプレイ中にフリーズして落ちることでしょうか。これは数時間に一度の頻度で発生しました。ただし、オートセーブやクイックセーブが用意されているので、いきなり終了しても致命的なことはありませんでした。とはいえ、クリア後のエンドロールで強制終了したときはさすがに興ざめして閉口しましたが。進行不能バグもあるようですが、私は幸い遭遇することはありませんでした。一部のサイドジョブは一時的に進行できないものもありましたが、最終的に進行不能という状態になったことはありません。一部の界隈では返品や訴訟などの問題として大きくなっているものの、遊べないレベルのものではなく、作品自体はむしろ遊んで十分楽しいものです。なお、私のプラットフォームは通常版のPS4であるからにして、最もバグに遭遇する頻度が高いプレーヤー層の一人であることは間違いないでしょう。その私が、サイバーパンク2077は十分楽しめる品質に至っていると判断しています。CD Projekt RED の前作であるウィッチャー3もバグが多かったことを顧みれば、サイバーパンク2077の品質も今後改善されていくことが期待できます。低い品質の原因については推測の域を出ませんが、コロナ禍の影響を除けば、発売時期がPS4とPS5の過渡期に当たったというのが主な原因ではないかと思います。PS4ではグラフィックの劣化ぶりが騒がれましたが、実際、PS4でプレイする私でも読み込みの遅れは、ほぼ常時発生していました。サイバーパンク2077は、どちらかと言えばPCのフラッグシップモデルで最適化されていました。開発元の CD Projekt RED は、コンシューマーゲーム機での映像表現について、広報の考慮が足りていなかった旨を公式に発表しており、これが同社の返品対応へと繋がっています。

次にゲームとしての本質について少し触れます。ウィッチャー3のプレーヤーであった私にとって、サイバーパンク2077の挑戦は一人称視点(FPS)であったということです。これにより、結果的に何がもたらされたかというと、主人公であるVの個性が前面に出るのを抑え、プレーヤーをより主人公としての立ち位置に寄せることになりました。ウィッチャー3はゲラルトという強烈な個性をもった主人公を三人称視点で描くことで、プレーヤーは主人公に共感する傍観者でしかありませんでした。これは、最終的にどちらが好みかという結論に帰着するものの、プレーヤー自身が物語の主人公になってほしいという開発側の意図をくみ取れるもので、それは十分機能していると感じました。その点で、キャラクターメイキングで選択できる性別は、プレーヤー自身の性別認識に添ったほうが良いだろうと思ったくらいです。自分自身を男性だと認識するプレーヤーが女性主人公を操作すると、プレイしていてどことなく違和感を感じます。それはプレーヤーが主人公の傍観者ではなく、主人公そのものであることを意図しているからであろうと推測します。

ゲームとしての本質に関しては、ゲーム性と物語に分けることができます。ゲーム性は一人称視点という特徴に加えて、アクション面に着目することができます。サイバーパンク2077は主に、FPSとしてのアクションに注目が向きがちですが、実はそれだけにとどまらない多様なプレイ体験を実装しています。主人公のビルドによっては、全くの別のゲームではないかと言えるほど、ゲーム体験に違いがあります。まず、本来FPSを独擅場とする銃火器について、言わずもがな多くのバリエーションがあります。ハンドガン、マシンガン、ショットガンと言った従来の種別に加えて、それぞれの武器種がパワー、テック、スマートといった独自の分類に分けられています。それぞれの分類に対して使い勝手が異なるので、同じハンドガンという種類を使ってもゲーム性がかなり違います。ただ目標をエイムして引き金を引くだけの行為にバリエーションを持たせたことは、ゲーム性の向上に高く貢献しています。例えば、グランドセフトオート5(以下、GTA5)は、近代的な街並みを自由に歩き回るという点で、サイバーパンク2077と似た印象を持つことができます。ただ、GTA5には武器の違いはあれど、エイムしてトリガーする単純作業に違いがありませんでした。フォールアウト4(以下、FO4)では、V.A.T.S. と呼ばれるコマンド式のシステムがエイム・トリガーの単純作業に幅を持たせることに成功しました。ほかにもバイオショックや、ボーダーランズなど、FPSというシステム性でRPGの分野に進出したゲームは、いずれも単なるエイム・トリガーにならないような工夫が見られます。今では、純粋なエイム・トリガー型のゲームは、競技性を強めてEスポーツの分野へと進出し、あくまでも一人遊びであるRPGの中では、もはや選ばれにくい選択肢かもしれません。サイバーパンク2077は、RPGFPSを実現するための、ひとつの解をまた生み出しのではないかと思います。個性的な武器で飽きさせない特徴は、どことなくボーダーランズと同じ方向性を感じました。銃火器だけではありません。近接武器にもかなり力が入っています。サイバーウェアやパークを組み合わせると、一方的に敵をなぎ倒していくことができます。ステルスプレイに徹しようとすれば、メタルギアソリッドのようなプレイ感を得ることもできます。さらに、クイックハックなどを駆使すれば、それこそ攻殻機動隊さながらに、電脳戦で一方的に相手を無力化することが可能です。とにかく、自分が目指すプレイスタイルによって、その都度新しいサイバーパンク2077を知ることになります。

物語に関しても大きく舵を切ってきました。発売前からすでに言及されていたことですが、メインストーリーはウィッチャー3に比べるとだいぶ短くなっています。それでも、プレーヤーを飽きさせない牽引役として物語は十分に機能していました。もし、ボリューム不足を感じたのであれば、これから予定されているダウンロードコンテンツに期待しても良いのではないでしょうか。私は、何の事前知識もなくサイバーパンク2077を遊び始めた口ですが、グイグイと引き込む展開の中で、明らかになる深いテーマ性と、壮大な世界背景には意外な気持ちがしました。サイバーパンク2077にどのようなテーマを見出すかは、プレーヤーそれぞれだと思います。私は、サイバーパンク2077が狙っているテーマは、生き方と死に方、つまり死生観だと思います。科学技術の発展により、肉体と機械と精神は、より不可分になっていきます。それに付随する問題は数多くのSF作品がテーマとして扱ってきました。サイバーパンク2077もその系譜の一つと言えるでしょう。どんなに、科学技術が発展しても、生まれて死ぬという生命としての宿命は避けられません。そこから生まれる苦悩や幸福に関しては、原始の頃から全く変わらないものです。人間は変わっているようで全く変わっていないのです。でも、もしそれが変わるとしたら……。もし、まだプレイしていない人がいたら、もしクリアしていない人がいたら、ぜひ自分だけのストーリーを全うしてください。

思えば、CD Projekt RED のゲームを遊ぶのはウィッチャー3以来のことでした。それは、血塗られた美酒にて、ゲラルトにカメラ目線で微笑みかけられて以来の再会です。私は、あのエンドロール直前の最後のシーンこそが、CD Projekt RED の姿勢の神髄だと思っています。彼らのものづくりの先には、常にプレーヤーである私たちがいます。作中の主人公がプレーヤーに直接メッセージを送る手法は、今までにない感動を私にもたらしました。その感動の熾火が私をサイバーパンク2077へと仕向け、彼らの誠意に当てられたからこそ予約販売が800万本を超えたのです。彼らの誠意はまだ健在です。返品対応もその一つです。彼らはプレーヤーに対して誠実であり続けています。

私が、サイバーパンク2077の感想として言いたいことは一言なのです。ただ、ありがとう、その一言なのです。度重なる発売延期とコロナ禍の中で、開発会社内ではクランチと呼ばれる過労状態があったことも報道されました。彼らは、そしてサイバーパンク2077は、十分に私の期待に応えてくれました。こんなゲーム体験を提供してくれて、本当にありがとう。発売日が12/10という年末に延期されたことで、私はむしろ充実した年末を過ごすことができたかもしれません。一日中ゲーム漬けになるのは久しぶりのことです。おかげで、私なりに良い年を迎えることができそうですよ。本当は、もう少し早くサイバーパンク2077について書きたいところだったのですが、ついついプレイを優先してしましました。

それでは、最後に一言。

「よお、チューマ。いい年を迎えろよ。」(森川智之さんの声で)

【PS4】サイバーパンク2077

【PS4】サイバーパンク2077

  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: Video Game